片手にラヂヲ♪ ホーム短波ラヂヲの世界へのお誘い「楽器」としてのラジオ?!Tod Dockstader"Aerial"

作成日:2005/08/07
最終改訂日:2006/08/27

「楽器」としてのラジオ?!

Tod Dockstader (1932〜)

"Aerial" (2003)

いきなり余談ですが,時々ひまつぶしにインターネットの検索エンジンで,この「楽器としてのラジオ」のネタを探すことがあります。その際「music」という語句に「radio」とか「shortwave」とかを組み合わせます。
しかし「antenna」は思いつかず,まして同義の「aerial」も全くノーマークでした。そんなわけで,レコード店でこのCDを見つけたときは,いささか意表を突かれた思いもしました。(^^;)

それはさておき,この作品も素材に「短波」が使われています。ただし,後述するように素材はすぐにはそれとはわからないほど,徹底的に加工されています。

Dockstaderは1932年,アメリカ・ミネソタ生まれ。大学で心理学と芸術を専攻,後にハリウッドに移り独学で録音エンジニアとなり,1959年にGotham Recording Studios(かの"Switched on Bach"のWalter Carlosもここのエンジニアだった)に職を得ています。そうした出自から,現実音を組み合わせた音楽の創始者Pierre Schaeffer(別項参照)に共感していたようです。

作品リストには,1960年から現在までわずか15作品があるのみです。ことに1967年以降,2003年の本作までは1990年の1作のみという長いブランクがあります。これは,正式な音楽教育を受けていないため,60年代後半以降,主だった電子音楽の研究施設に加われなかったためのようです。そのためか,名前が知られるようになったのもごく最近のことです。

そんな経緯を経てついに完成した,2003年の作品"Aerial"ですが,CDの本人の解説によると,Dockstaderは,ラジオには幼少の頃から関心があったらしく,若い頃はアマチュア無線にも手をつけていたようです。
制作の動機として,Dockstaderがごく若かった頃,人々がラジオから大部分の娯楽を得ていて,楽器であるかのように「ラジオを"play"する」と言っていたが,自分はこの作品でしようとしたことはそういうことだ,と述べています。
ただし,音源は短波ラジオながら,「放送ではなく局の合間の音」を集めたとのことです。

素材の準備は1990年から始まっていたといいます。持っていた古い短波ラジオから,受信状態の良い夜間にコツコツとカセットに音を録りためたそうです。カセットを使ったのは,音源がローファイだし,経済的でもあったからだそうです。
それを合計90時間,35のDATカセット,72のオープンリールのライブラリにし,1994年10月にミックスを始めました。さらに,580の2トラックのミックスを作り上げますが,なんと音はいったんアナログに戻され,昔ながらのテープの切り貼りをしていたそうです。(^^;)
そして2001年,齢70近くになって娘さんに背中を押されて^^;ようやっとコンピュータを導入,ミックスは90,さらに59のトラックに厳選され,CDのリリースとなりました。

このように,長大な素材を準備し,それを加工,ミックスする作風があって,作品の少なさは,こうしたところにも理由があるのかもしれません。

"Aerial"のCDは,全編が3枚でリリースされています。3枚を納められるようになっている"#1"のケースにはパラボラの写真があり,3枚それぞれのジャケットにも電波をイメージしたような,複数の横に流れる白く細い曲線が,背景色違いでデザインされています。

CD全体は複数のトラックに分けられそれぞれにタイトルがついていますが,全体に有機的なつながりが感じられます。
いずれも,リズムもメロディーも希薄な長く引き延ばされた音が主体で,モトの素材がほとんどわからないほど加工されています。その点で,Tim Hecker(別項参照)の作風に似たところも感じられます。

どのトラックも以下同文^^;という感じですが,ラジオを聞き慣れた耳で聞くと,素材や特徴を感じられるトラックがあります。そうしたものを中心にピックアップします。

#1 (CD:Sub Rosa SR223)

1. Song / 2. Om / 3. Rumble / 4. Shout / 5. Raga / 6. Dada / 7. Tremblar / 8. Lala / 9. Myst / 10. Aw / 11. March / 12. Harbor / 13. Swell / 14. Pulse / 15. Second Song

1."Song"は,いきなり延々と重低音がうなってます。(わかる人には,タルコフスキーの映画「ソラリス」の電子音に似ていると言うとわかってもらえるかもしれません。)どうすれば短波の音がこうなるのか,想像を絶するところがあります。
ただし,このトラックでは1分目ほどのところで,モールス信号や短波のノイズなどの素材がはっきり聞こえるところがあります。(8分を過ぎたところで,いきなり炸裂したような音がして音量が大きくなるので,かそけき音を音量を上げて聴く人は注意。^^;)
8曲目"Lala"は,データ通信の信号をサンプリングしたと思しき音で作られた,リズミカルなシークエンスがあって,ちょっと異色のトラックです。
11."March"は,冒頭に短波のノイズっぽい音をともなった,変調をかけられた人の声(コーラス?)らしき音が聞こえます。後は,同一の素材をさらに変調したと思しき音が続きます。(Stockhausen[別項参照]"Hymnen"の,ラスト近くに似た音があります。)
13."Swell"は,長く延びた重低音の上に,データ通信などの音が一瞬浮かんでは消えていくところがあります。
14."Pulse"は,タイトルから想像されるようなものではありませんが,それでも緩いリズムを感じるシークエンスがあります。続くラスト15."Second Song"とは,わずかにインターバルを置いています。これまた重低音が唸ったかと思うと,1分半ほどであっけなく終わります。

#2 (CD:Sub Rosa SR228)

1. Approach / 2. Omaggio a Fellini / 3. Pipes / 4. Orgal / 5. Babbel / 6. Yaya / 7. Ba Loon / 8. Clocking / 9. Wail / 10. Bottom / 11. Feeder / 12. Spindrift / 13. Surfer / 14. Low Roller / 15. Still / 16. Beating / 17. Piccolo / 18. Wire / 19. Knock / 20. Wah / 21. Aah

"#2"も,素材の加工は徹底していますが,"#1"に比べると短波の音がある程度わかる曲が多い感じを受けます。実際,データ通信の受信音などが随所で聞こえます。
2."Omaggio a Fellini"では, 楽音のようなドローンとともに"ピロピロ"というデータ通信の音,モールス符号で"・−− −・−・ −・−・ (WCC) − − −"(最後の"−"3つは長めに打たれています)と繰り返すシークエンスがあります。
4."Orgal"は,いろいろな信号音や音声通信の音(ハムなどで使われている"SSB"モードの音)が入り混じった,錯綜したサウンドです。
6."Yaya"は,2曲目のモールス符号"WCC"のシークエンスがより歪んだ音で再び現れ,曲の前半はこの音を中心に進行します。後半はより複雑なテクスチャーの音になっていきます。
13."Surfer"では,背景にデータ通信音と,短波放送によく混入してくる"キーン"という音(ビート混信音)も聞こえます。
17."Piccolo"は,データ通信の受信音の組み合わせ(この種の信号音は,言われてみれば笛のトレモロ音に似てますね^^;),続く18."Wire"はかなり速いモールス信号音で構成されています。この2曲は聴き所でしょう。
続く19."Knock"は,#1の"Lala"と似たリズミカルな曲です。リズムを刻んでいる音は,データ通信の音か,チューニングダイヤルを回したときの"きゅるきゅるっ"という音に似ています。曲の後半には,歌をサンプリングしたような音も聞こえます。
そしてラストの20."Wah"と21."Aah"は一転して,長くたなびく音を中心にした静謐な曲。時折,通り過ぎるように短波のノイズが入ってきます。

余談ですが,この盤のトータルタイムは,CDの収録時間すれすれの79分55秒。こんなところにもキアイを感じます。(^^;)

#3 (CD:Sub Rosa SR233)

1. Mutter / 2. Wave / 3. Descent / 4. Dissent / 5. Voicetrain / 6. Howl / 7. Surge / 8. Wheeze / 9. CQ / 10. Jam / 11. Bounce / 12. Whisper / 13. Oh / 14. Stomp / 15. Harmonic / 16. Din / 17. Pressure / 18. Serious Jig / 19. Stream / 20. Steam / 21. Wait / 22. Woo / 23. Finale

概して,#1,#2に比しても,さらにわかりやすいラジオの音が出てくることが多くなっています。もしかすると,そのように全体の構成が考えられていたのかもしれません。
5."Voice Train"は,タイトルどおり列車の走行音のようなリズミカルな音がメインです。6."Howl"でも同様のリズミカルな音が続きます。この音源ですが,ポップスなどの音楽が流れているところを,チューニングをずらして音をシャリシャリさせたもの(サイドスプラッシュ)と思えるのですが,どうでしょうか。
8."Wheeze"では,音色はだいぶ変えていますが,いかにも短波の信号音という感じのリズミカルな音がしています。
続く9."CQ"は,タイトルそのままにモールス信号の音だけで構成されています。"CQ"(−・−・ −−・−)や,試験信号"VVV"(・・・− ・・・− ・・・−)などが聞き取れます。続く10."Jam"も引き続きモールス信号が音源で,モールス信号を普通のラジオで再生(AMモード)したときの「ポツッ,ポツッ,ポツッ」という音を,おそらくほぼそのまま作品に仕立てています(徹底した加工の芸風からすると例外的ではあります)。この"Jam"は"Jamming"=「妨害電波」ではなく,「混線」という程度の意味かもしれません。
12."Whisper"は,タイトルに象徴されるような女声コーラスっぽい薄く長くたなびく持続音の背後に,データ通信の音などがちらほら聞こえています。
14."Stomp",15."Harmonic",16."Din"でも,モールス信号(「CQ」も聞こえる)が出てきます。もっとも,16.では,よく聞かないとわからないほど音が歪んではいますが。
19."Stream"では,「ガーッ」という金属的な持続音のする中「ピロピロピロ....」というデータ通信の音らしいものが聞こえています。
23."Finale"では,低く立ちこめる重低音を背景に,10."Jam"に似たデータ通信とモールス音を組み合わせた音が折り重なってきます。かすかに"SSB"モードの音声らしきものも聞こえています。そして,音がホワイトノイズのようにまでなったところで,曲はパタッと終わります。


それにしても,ノイズから拡がるサウンド,はたまたStockhausenの言うところの超越的なイメージにしろ,短波がこれほどの作品を形にしてしまうイマジネーションの源泉でもあることを,あらためて確認させられます。

しかし,短波の音をこれほどまでの作品に仕上げるには,Dockstaderが抱いているような,幼少の頃からのラジオへの愛着は不可欠なのでしょう。
言うなれば本作は,ラジオ→アマチュア無線→音響技術→PCと時代のメディアを辿ってきたDockstader自身の回顧録でもあり,テレビやコンピュータで育った世代への遺産でもあるのだと思います。


[参考サイト]


"#2"の2曲目と6曲目に出てくるモールス信号"WCC"ですが,アメリカ東海岸,Cape Cod南東のChathamにあった海岸局"WCC"の受信音と思われます。近年モールス通信が衰退する中,ご多分にもれず廃局となっているようです。そう思って聞くと,ちょっと切なさも感じます....。

[参考記事]

(2005/08/07,改訂:2005/08/15,12/21,2006/08/27)

(c) 2005-2006 gota

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