片手にラヂヲ♪ ホーム短波ラヂヲの世界へのお誘い「楽器」としてのラジオ?!Spunkle "Music For DXing"

作成日:2011/07/29

「楽器」としてのラジオ?!

Spunkle "Music For DXing" (2003/2011)

  • 1.Maximum ERP / 2.OTH / 3.Russian Man / 4.Hi-Lo / 5.Das Beeble / 6.Sunspots / 7.Interlocking Groove / 8.In Search of XPH / 9.Jabba / 10.Music for DXing / 11.Slow / 12.Eastern Interval / 13.Afternoon / 14.Sweeping / 15.Signals / 16.Wax Paper Capacitor
  • First Fold Records http://www.firstfoldrecords.com/?page_id=1321

※曲目はデジタルダウンロード版のもの(下記参考リンク参照)。ご本人のブログによると,CD版にはさらに2曲入っているとのこと。


イギリス・オックスフォードをベースに活動する,SpunkleことJames Davies氏の,音楽とラジオの趣味をまとめて,電子音楽のファンにも"DXer"にもアピールできる音楽を作ろうとしてできたという作品。

タイトルにもある「DX」とは,アマチュア無線や短波受信の用語で「遠距離(distance)」,「海外」,「遠距離,海外との交信(受信)」を意味する言葉。"DXing"でそうした活動,"DXer"はそれを趣味にする人という意味。
収録曲のタイトルにも,そのスジの用語がちりばめられています。

Spunkle氏は,10歳の誕生日に買ってもらった短波のついたラジカセで,テープづくりとラジオに惹かれるようになったといいます。
音楽活動は1997年に始まり,数作のアルバム制作,ライブ活動などをしているようです。
本作は,2003年に仲間内だけでリリースされ,さらに2011年になって正式に発売になっています。

音楽はまず"tinysongs"と彼が呼ぶ,メロディーともハーモニーともつかないミニマルな断片から作り始め,ラジオの音と合わせていくそうです。
例えば,音楽的なテンポを短波で聞こえるファックス信号の持っている音の周期で考えたらどうか,情報を送っている信号もかっこよく聞こえるのではなどと考えながら,音楽を組み立てていくとのことです。
また,本作では短波の放送音声や信号音よりも,電波がないかごく信号が弱いノイズだらけの音を多用していますが,彼はそれを"DX-friendly"なものと考えているようです。

1.は,冒頭かすかなノイズの音で始まり,モールス信号が入ってきます。本作中では,唯一明瞭に聞こえる信号音です。聞き取ってみると"HELLO AND WELCOME TO THE START OF THE RECOR"(最後に"D"がない?)と打っています。
やがてドラム,ペースのない,中低音ゴリゴリのミニマルっぽいフレーズのシンセの音が入ってきます。
以降も,ラジオのノイズ音とともに同様のシンセ音楽が続きます。

全体的に,タイトルにあるラジオマニアの思い入れと裏腹に,シンセ音楽が出すぎていて,短波のノイズそのもののリズム感や音色が活かし切れていない感じも,正直します。エレクトロニカとしては,悪くはないのですが。
ただ,後述するように,本作ではタイトルが示す短波の音を直に使わないフシもあるので,極力イメージを音楽に置き換えようとしているようにも思えます。

しかし,短波ノイズを使った作品が世の中にあまたある中で,制作者本人も短波が好きだという思い入れが伝わってくる作品は,同じ短波のファンとしては,なんだかんだ言ってもやはりうれしいものです。(^^;)
Spunkle氏は,本作制作後も相変わらずラジオは好きで,海外に行くときはラジオをいっぱい持っていって「DXペディション」もしているそうです。ただ,最近ノイズが増えていることも嘆いています。ラジオファンの悩みは,国が違えど皆同じです。(^^;)

最後になりますが,各トラックのタイトルに使われている用語類を含め,筆者の理解の範囲で軽く解説。

1."ERP"は,無線関係の技術用語で「実効放射電力 (Effective Isotropic Radiated Power)」,つまり放射される電波の電力の強さのこと。

2."OTH"は短波を使った「OTHレーダー (Over The Horizon Radar)」のこと。冷戦時代は,日本でもソ連などが運用するレーダーの「パタパタパタ」というパルスノイズ(「ウッドペッカー」と呼ばれた)がよく聞かれました。ただ,このトラックにそういう音はなさそうなのですが…。

3."Russian Man",8."XPH"は,"The Conet Project - Recordings of Shortwave Numbers Stations"(別ページ参照)にも収録されている暗号放送の名称。いずれも,情報のない信号の類です。ただし,これもその音は直接使われてなさそうです。

6."Sunspots"は,太陽黒点のこと。短波の伝わり方は,この太陽黒点数でも左右されるので,短波ファンの関心が高かったりします。(^^;)

11."DX"は,冒頭解説したとおり。ここでも,小さな音でモールス信号らしきものが聞こえています。シンセの音は,低くこもってノイズに埋もれそうですが,かえって絶妙の音のバランスで、本作のベストトラック。(^^;)

12."Eastern Interval"は,たぶん冷戦時代の東側,さらに"interval signal"(IS),つまり放送開始前に流れるチャイムのような信号のイメージ。ここでもその受信音は直接使わず,ノイズっぽい弱い信号音を背景に,ISを彷彿とさせる素朴なメロディーが繰り返されています。(Spunkle氏は,"Radio Sweden"のISが好きだとも語っています。)

14."Sweeping"は,ラジオのダイヤルを回す操作のことか。それでもチューニング音の類はなく,エレキギターのロングトーンっぽい音色が延々繰り返されています。

16."Wax Paper Capacitor"「ワックスペーパーコンデンサ」は,アンティークラジオなどで見かけるパーツ。前半のチューニングの狂ったギターのような音と,歪んだラジオの音声っぽい音の絡みがステキ。


[参考サイト]

(2011/07/29)

    (c) 2011 gota

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