片手にラヂヲ♪ ホーム短波ラヂヲの世界へのお誘い「楽器」としてのラジオ?!Steve Roden

作成日:2013/02/05

「楽器」としてのラジオ?!

Steve Roden (1964-)

"The Radio"
"Transmissions (Voices of objects and skies)"

Steve Rodenは,アメリカ・ロサンゼルスを基盤に活動している,電子音楽家,ビジュアルアーチスト。
電子音楽では,"In Be Tween Noise"名義や共作で多数の作品を世に出しています。

日本の電子音楽ファンの間では「物音系」と括られることがあるようで,大概の作品は何か一つの素材から様々な音響を引き出し,それをミニマルな素材(しかも音量小さめ)にして構成する作風です。
ここでご紹介する作品は,ラジオ絡みですが,ほか例えばロサンゼルス公共図書館でのインスタレーションのために制作された"Forms Of Paper"(2001)は「本のページ」の音を様々に加工した音で展開されています。


"The Radio"

  • フランス盤 Sonoris SON-22 (1999)
  • 1. The Radio (18'33")

元々はサンフランシスコでの"The 1996 Soundculture Festival"のため制作され,1999年にリリースされたCDは,これ1曲のみ収録。

まず聞こえてくるのは,ノイズ混じりのコーラスの短いフレーズの繰り返し。
ノイズは,ラジオの受信音のノイズのほか,炭が燃えてチリチリいっているような生音がしていす。
後者は,終盤15分目あたりまで鳴り続けています。

そして,コーラスの音は7分目あたりで消え,次に聞こえてくるのが,女声ソロの歌。

14分目からは,ラジオの音らしき,男性の声のごく短い断片の繰り返し。背景には「キッ,キッ」と何か軋むような音,「シュー,シュー」と繰り返す電子音。
最後は,永遠に寄せては返す波のように繰り返されるノイズがフェードアウトして,余韻を残します。

解説によると,音源は大きく分けて2種類あります。

一つはラジオの受信音で,ノイズ混じりのコーラス5秒間,1994年に日本で(!)カセット録音した短波のノイズ5秒間,ランダムに音量を上げ下げしたトーク8秒間,ランダムに音量を上げ下げしたノイズ8秒間。

もう一つ,これが本作のユニークなところですが,「祖父の古い東芝のトランジスタラジオ」から作った生音があります。
短い電源ケーブルをバイオリンの弓で引いた音,電源スイッチをひねる音,チューニングつまみをひねる音,電池ホルダーの電極を弾く音,スピーカーネットをマイクで叩いた音。
音楽で使うラジオの音といえば,受信音と思い込んでいましたが,これは意表をついてます。(^^;)

そして,これまた意外や意外なのですが,本作唯一のラジオ以外の音,中盤に聞こえている女性としか思えない清澄なボーカルは,なんとご本人の声なのだそうで。(@o@;)ェェェ
ちなみに歌詞の内容は,英文の区切りを変えてサウンドを変えたもの(例:"the radio is brown"→"the rad ioi sbr own")とか。

ラジオを中心に据えた,これほど多くのアイデアを投入しながらも,ラジオの騒々しい面を微塵も感じさせず,全体に抑えた静謐なトーンでまとめたところに,作者の冴えたセンスを感じます。

ただ,なぜここで「ラジオ」だったのかは,情報がないのでわかりません。
音源に「おじいちゃんのラジオ」があるあたり,レトロなラジオ,空中を飛び交い消えていく電波,刹那の物音が,家族の記憶の断片,過ぎ去りし日々の記憶のようなものと結びついているようにも感じられます。


"Transmissions (Voices of objects and skies)"

  • 米国盤 Fresno Metropolitan Museum Of Art And Science (2005)
  • 1. Transmissions (Voices of objects and skies) (37'10")

米カリフォルニア州中部の都市,フレズノのメトロポリタン・ミュージアムでの,音・絵画・ドローイング・彫刻で構成された同名のインスタレーション用に制作された音源です。
作品は,宇宙からの第一声を送信した宇宙飛行士のジョン・グレン,"母音"に色をあてたランボーの詩「母音」にインスパイアされたとのこと。

音素材は,1960〜80年代にアマチュア天文学者が録音した衛星の信号音です。
多数のブリキ缶に色をつけたり,カラーのライトやスピーカーを仕込み,天井から暗闇の部屋に吊るし音を小さく鳴らす仕掛けです。
(CDはステレオですが,オリジナルは8チャンネル。)
空の彼方の衛星と,そこから降ってくる電波のイメージそのものといったところでしょうか。

音は,ほんわかした笛のような音色の,緩いテンポのごく短いメロディーが繰り返されています。
衛星の信号音らしくない音色ですが,おそらくトーンを加工して組み合わせているのかと。
時間が進むにつれ,同様にループになった他の音が少しずつ加わってきます。
ノイズっぽい音あり,いかにも信号という感じの,中にはモールス信号の断片と思しきものも聞こえます。
様々な音が折り重なった後,最後にフェードアウトしていくあたり,案外構成は古典的かも。

カオスっぽくなる瞬間もありますが,全体の印象は牧歌的。
モチーフになっている「衛星」は,1960年代からしばらくは科学技術の最先端でしたが,インターネットの時代の今となると,ラジオ同様一歩退いたレトロなイメージさえあり,そんな感覚を引き出しているのでしょうか。(^^;)


[参考サイト]

(2013/02/05)

(c) 2001-2013 gota

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