片手にラヂヲ♪ ホーム短波ラヂヲの世界へのお誘い「楽器」としてのラジオ?!Thomas Dolby

最終更新日:2005/07/23

「楽器」としてのラジオ?!

Thomas Dolby (1956〜)

"The Golden Age Of Wireless"
(1982,邦題「光と物体」)

1. She Blinded Me With Science / 2. Radio Silence / 3. Airwaves / 4. Flying North / 5. Weightless / 6. Europa and the Pirate Twins / 7. Windpower / 8. Commercial Breakup / 9. One Of Our Submarine / 10. Cloudburst at Shingle Street

彼もOMD(別項参照)同様,80年代前半にソロデビューし,シンセを前面に押し出したサウンドの本作のおかげで,"electronic pop"を代表する人物として認識されています。大ヒット"She Blinded Me With Science"(邦題「彼女はサイエンス」)でご存じの人は多いでしょう。

アマチュア無線をやっていたことがあるというDolbyさんは,最初のアルバムに"The Golden Age Of Wireless"というタイトルをつけ,アルバムからのシングルヒットも"Radio Silence", "Airwaves"と題されていて,思い入れの深さを感じさせます。

音は,ラジオのノイズっぽい音を多用してはいますが,芸風はテクノ,エレクトロニカっぽい感じはしません。ソロデビュー以前にも,多数のセッションをこなしていた人だけあって,手堅くできたポップスになっています。(ここで紹介している他の作品にありがちなマニアックさ^^;はなく、手頃な国内盤もあるのでおすすめの一枚ではあります。)

この作品のラジオっぽさは,つけられたタイトルはもちろん,歌詞への電波やラジオの織り込み方にもミソがあると思えます。(それゆえ,歌詞はかなり凝っていて,なかなかイメージをつかみにくいのではありますが。)

"Airwaves"は,ラジオが傍らにある心象風景を,イマジネーションたっぷりの詞と,ややセンチな曲風で聴かせる傑作です。
また,これもシングルヒットで,冒頭ラジオのチューニング音から始まる"Radio Silence"にも,男女の駆け引きをラジオの操作に例えたようなユニークな歌詞があります。
"Commercial Breakup"は,このアルバム中では珍しくストレートなロックっぽい曲で,フュージョン風のシンセソロもあります。ただし,歌詞にはロボットか宇宙人のような視点があって,"transmission"(送信)という言葉も使われていたりします。

ちなみに,現行版では割愛されている1曲,"Wreck Of The Fairchild"には,ジェット機の騒音のような金属音をともなった無線の交信風の音が使われています。その声がまたなぜか,スペイン語かイタリア語のようなのです。よく聞くと,ごく小さく低い声で,それらしい言語のコーラスも入っています。

本作の発表当時,MTVで流れていたビデオにも,無線機風の機械のセットがずいぶん見られました。
"Airwaves"には,冒頭から真空管時代のごつい無線機が出てきたり,歌詞はラジオと直接関係のなさそうな"Europa and the Pirate Twins"にも無線機風のメカが出ていて,見どころいっぱいでした。(^^;)

Dolbyさんのラジオを題材にした作品は,残念ながらこの1作だけで,2ndアルバム"The Flat Earth"(1984,邦題「地平球」)以後は,エレポップというよりも,ファンク色も入った職人気質の音楽といった感じの芸風になっています。

Dolbyさんや,Czukayさん(別項参照)などラジオに関心を持つミュージシャンは,音楽的特徴だけでなく,録音などのハード面にも強い傾向があって,他のミュージシャンのプロデュースでもプラスになっている点があるように思えるのですが,どうでしょうか?
実際,現在はインターネットでのサウンドインタラクティブを展開する会社"Beatnik"を設立していて,そちらの経営に力を注いでいます。

Dolbyさんのプロデュース作としては,Prefab Spraut "Steve McQueen"(1985)あたりが個人的好みです。そのPrefab Sprautのリーダー,Paddy McAloonの作品にも深くラジオに絡んだ作品があります(別項参照)。そこに心理深層のつながりを感じるとか,それは考えすぎだとか(^^;),ともかく興味深いところです。

(改訂:2005/07/23)

[参考サイト・文献]

  • 公式サイト "The Flat Earth Society" (英文)
    http://www.thomasdolby.com/
  • 「オトギ話的な科学の創作者 好奇心いっぱいのトーマス・ドルビーは25歳」(「ミュージック・マガジン」1984年9月号,ミュージック・マガジン)
  • このアルバムは,収録曲,曲順,曲のバージョン違いのある数種類が存在します。冒頭に挙げたものは,現在入手可能なCDのものです。
    経緯等については,充実したファンサイトの一つ"Thomas Dolby - Unofficial Fan Site"(英文)に詳しいです。
    参考まで,本文中言及した"Wreck of ...."を含む最初の日英で出たLPの曲順は以下のとおりです。
    Flying North / Commercial Breakup / Weightless / Europa and the Pirate Twins / Windpower / The Wreck of the Fairchild / Airwaves / Radio Silence / Cloudburst At Shingle Street

(c) 2001-2005 gota

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