片手にラヂヲ♪ ホーム短波ラヂヲの世界へのお誘い「楽器」としてのラジオ?!サウンドスケープとしてのラジオ

作成日:2005/05/13
最終更新日:2015/05/06

「楽器」としてのラジオ?!

サウンドスケープとしてのラジオ

"Sublime Frequencies"のCD

アメリカのレーベル"Sublime Frequencies"は,東南アジア,インド・中東,アフリカの音楽,サウンドスケープのCDを発売しています。
その中に,なんと,各地域のラジオを録音しCD化したものがあります。ラジオを通したサウンドスケープといったところでしょうか。
ラジオはグローバルな技術ですが,実は地域の色彩豊かな音風景にもなっているというわけです。

てなわけで,私(ごた)も,"Radio何とか"とタイトルのつけられたCDを入手してみました(このレーベルのリリースには,これ以外にもラジオの音を入れたものがありそうです)。
短波ラジオがあるのに,わざわざ買って聞くの?と言われそうですが(日本では聞けないAM/FMの音源満載ですし)。A^^;

収録した音源は,編集こそされていますが,音楽,DJ,ドラマ,CMなど多彩な音が詰まっていて,各地のラジオのムードが伝わるものになっています。(同様にラジオを音源にしても,"音楽作品"に徹した篠原眞"Broadcasting"とは対照的です。)

これらラジオものの音源の多くが,これらCDの監修者Alan Bishopの,現地録音,編集によるものです。彼は前衛ロックバンド"Sun City Girls"としての活動が知られています。私は未聴ですが,バンドにもラジオを使った演奏があるとのことです。
そうしたラジオへの思い入れの深さが結実したのが,これらのCDでしょう。

それにしても,採集者の皆さん,海外行ってホテルに籠もって,ラジオ三昧とかだったんでしょうか(って,人のことは言えない^^;)。

Radio Java/Radio Sumatra Radio Morocco/Radio Algeria Radio Palestine
Radio India Radio Phnom Penh Radio Pyongyang
Radio Thailand Radio Myanmar(Burma) Radio Niger
Radio Vietnam


Radio Java (SF002)
Radio Sumatra:The Indonesian FM Experience (SF021)

"Sublime Frequencies"のリリースは,インドネシア関係のものが多く,ラジオ物も異なる地域の音源で,この2枚がでています。
この地域の放送は,短波ではRadio Republik Indonesia (RRI,15125kHzほか)などが日本でも聞くことができます。

"Radio Java"は,首都ジャカルタもある同国の中心になる地域の放送から。各トラックには放送局名のタイトルがつけられています。挙げると,Radio Jakarta, Radio Surabaya, Radio Republik Indonesia, Radio Yogyakarta, Radio Bandung, Radio Solo/Bandungとなっていて,局名アナウンスが聞こえるものもあります。("DXer"の方々には,おなじみの局もあるのでは?)
聞こえる音楽のジャンルも,ポップス,ロックのほか,現地の主要ジャンルのジャイポンガン,クロンチョンなど多様です。ほかDJ,ドラマなどがいいタイミングで入ってます。

"Radio Sumatra"は,FM放送が音源になっています。(ほかの地域の盤にはAM,あるいは短波も混在しています。)この盤はそのせいか,"Java"に比べると,音楽もポップス系が多い感じはします。
Disc1,track1は,いきなり英語のジングルで始まります。英語のジングルは,ほかの盤でも聞かれますし,日本のFM局だけの現象ではないようです^^;。また,track6では,視聴者電話参加番組,track11では"♪Voice of America, VOA, Washington"なんてジングル(現地向け再送信番組?),さらにコーランまで聞こえます。

[参考情報]
インドネシアのポップスについては,「インドネシア・ポップス小事典 - Pop Indonesia」の解説が簡潔にまとまっています。


Radio Morocco (SF007)
Radio Algeria (SF029)

"Radio Morocco"は,モロッコで1983年に収集された音源です。
ほかの盤は,比較的音楽を聞かせる編集をしていますが,これと後述の Radio Palestine"は,短めの断片のパッチワークの印象を受けます。ここで紹介しているものの中では,"ミュージック・コンクレート"的とも言えましょうか。

アフリカ,というよりアラブ的な雰囲気の音楽が多く聞こえます。地中海の向こうがすぐフランスとあって,フランスのポップス,フランス語などもチャンポンに聞こえるのが特徴でしょうか。
短波で,このモロッコのRadio Mediteranee Internationale (Medi Un, 夕方・早朝9575kHz)が聞こえますが,まさにこんな雰囲気です。

track1に"Radio Tangier Internationale"というタイトルがついています。私は知らなかったのですが,実在した局のようです(http://ultimatechurcharchive.cogcw.org/coworker%20letters/571209.TXT参照)。
余談ですが,かつて国際都市だったタンジールには,1950年代にキリスト教系放送"IBRA Radio"もあり,日本語放送も行っていたことがあります。

"Radio Algeria"は,Alanさんが2005年に拾ってきた,バリバリの新ネタです。"Radio Morocco"同様,お隣の中東,対岸のヨーロッパがビビンバ状態の北アフリカネタです。

収録されている音楽は,アラブのポップス,民族音楽,フレンチポップなど新旧交え,シリーズ中一,二を争う混ざり具合を誇っています。(^^;)

[参考情報]
この地域の音楽やアラブ歌謡は,前述の"Medi Un"のWebサイトの"musique"のページhttp://www.medi1.com/musique/index.phpでも聞くことができます。


Radio Palestine:Sounds of the Earstern Mediterraneans (SF008)

1985年にパレスチナで収集された音源です。(前述のモロッコが1983年だったわけですが,当時のAlanさんの足跡が垣間見えます。)

短波で聞こえるもので言えば,Radio Kuwait (夜17885kHzほか),Radio Jordan (夜11810kHzほか)で聞こえる,アラブ歌謡などが主に聞こえます(この20年前の音源と,雰囲気がほとんど変わってません^^;)。ほか,西欧のポップス的なもの,英語の音声も聞こえます。また,放送にかかる妨害電波らしき音が聞こえる箇所もありますが,この地域の情勢を反映しているかもしれません。


Radio India - The Eternal Dream of Sound (SF014, 2CD)

怒濤の2枚組,Disc1はいきなり「ヤぁぁぁ〜っフぅぅぅ〜っ」てな男性ボーカルの雄叫びで始まります(^^;ちなみにこの声は,往年の有名な歌手,Mohammed Rafi)。
以下,時々アナウンスが入るほかは,60年代,70年代の古い映画音楽らしき歌のオンパレードです。(この手の音は,短波ラジオでも夜10330kHzで聞こえる,All India Radio国内向け放送でも堪能できます。)

Disc2は,よりバラエティに富んでいます。チューニング音やノイズ混じりの音あり,映画音楽のほか民族音楽,CM,ラジオドラマの音らしきものもあります。
ちなみにtrack6とクロージングで,All India Radio海外向け放送のオープニングに流れるシタールのドローンが聞こえます。さんざんラジオで聞いた音ですが,あらためて聞くと実にトランシーです。^^;


Radio Phnom Penh (SF020)

カンボジアをフィーチャーしたこの盤は,"five o'clock"と聞こえる英語混じりのアナウンスに始まり,最後はタイトルどおり"sign off",つまり放送終了時の音で締めています。

流れているポップスは,60年代〜70年代にかけてのものと,近年のものが混在しているようです。
track8には,Beatles "A Hard Days Night"をパクったとしか思えない曲^^;,track12の「コンドルは飛んでいく」など,この地の60〜70年代の貪欲なシーンが窺えます。ほか,民謡風などけっこう多彩です。

[参考情報]
ちなみに,この地のポップスの情報は「Nikkei Net Smart Woman - アジア大衆音楽講座 第13回 カンボジアの大衆音楽」もご参照ください。


Radio Pyongyang : Commie Funk and Agit Pop from the Hermit Kingdom (SF023)

ついに来る物が来ました(^^;)。このレーベルから,まさかの北朝鮮物です!
本CDをコンパイルしたChristiaan Virant氏が,1995〜1998年に平壌で収録した,テレビ・ラジオの音声のフィールドレコーディングです。
それにしても,このCDのサブタイトルのすごいことったら("Commie Funk"って言い方,妙にイカしてて,気に入ってしまいましたが^^;)。

トータル47分に8つのトラックという構成です。内容は,トラック1に"Motherland Megamix"と題されているとおり,音楽を中心に編集した「メガミックス」です。もちろん,他のトラックも同様です。

ステレオHi-Fiの音はさすが現地録音です。
また,全トラックを通して,TV番組とおぼしき拍手やドラマの効果音が聞こえたり,短波で受信した"Radio Pyongyang","Voice of Korea"の英語放送の音声もところどころで聞こえます。(track1では,1分間"Radio Pyongyang"の放送開始部分を聞くことができます。)

track3は"Numbers Game"と題されています。
そうです,おわかりの方もいらっしゃると思いますが,かつて中波,短波で聞こえていた「乱数放送」が織り交ぜられています。
このトラックでは,ディストージョンギンギンのギターも聞けるのですが,CD制作時のリミックスなのでしょうか?それともホントに彼の地にこんな曲があるのでしょうか?

それにしても,世界初(そして最後か^^;)の北朝鮮ポップのメガミックス,ラジオファンには"SINPO 55555"の夢のような(^^;)1枚なのでありました。

[参考情報]
北朝鮮の音楽事情については,わかりやすくまとまった参考サイトなどが,なかなか見つけられません。<(_ _)>
よって私の理解で簡単に説明すると,彼の地の音楽は,金正日,金日成一族や北朝鮮の政治などの思想を賛美した歌詞を,オラトリオ的にオーケストラの伴奏で独唱,合唱で奏するものと,民謡風の曲を含め日常生活を扱うポップス的な曲に大別できます。
前者には朝鮮人民軍功勲国家合唱団,万寿台(マンスデ)芸術団など,後者には普天堡(ポチョンボ)電子楽団や旺載山(王在山,ワンジェサン)軽音楽団といった団体が知られています。
これらの音楽は,もちろん日本でも平壌放送,朝鮮中央放送,朝鮮の声などの放送で聞くことができます。
1990年代以降はポップス的な曲が増える傾向にありますが,ロックやジャズのような我々がポップスと考えているような音楽には「健全な思想意識を麻痺させる」といった否定的見解があるようです。


Radio Thailand: Transmissions from the Tropical Kingdom (SF028, 2CD)

こちらの"王国"は,ホントの王国,タイです。2枚組で,Disc1はMark Gergisが2000〜2004年に録音したもの,Disc2はAlan Bishopが1989〜1995年に録音したものという構成になっています。
収録地は首都バンコクのほか,チェンマイなど地方にも及んでいます。現地向け英語放送らしきアナウンスも聞かれます。

音楽を中心に聴かせる構成になっていて,"モーラム"や"ルークトゥン"などの,泥臭い演歌ノリ的な音楽が中心です。そのせいか,長期にわたって収集された音源にもかかわらず,変化のようなものは感じにくいです。

ちなみに,"All sound as originally recorded from AM/FM/SW/LW bands of Thai Radio"と記されていますが,音源は主にAM・FMのようで,この地域では放送のない長波(LW)はもちろん,短波の音らしきものも判別できません。

[参考情報]
タイのポップスに関しては,ネット上でも関連情報を日本語でそこそこ見つけることができます。このCDに収録された類の音楽を網羅的に紹介したサイトとしては「Loogthung THAILAND!」が圧倒的な情報量です。
Mamuang Club」には,タイポップスの歌詞の日本語訳があって,こうした音楽を聞いて暮らす人たちの心情にちょこっと触れることができます。


Radio Myanmar(Burma) (SF044)

これまた,すごいところが出てきました。ミャンマーです。(^^;)
軍事政権下で,2007年9月には全国的な僧侶のデモが発生,治安当局の制圧で多数の死傷者が出たのは記憶に新しいところです。
放送も当然軍事政権の管理下にあるわけですが,そんな国のラジオはどのようなものでしょうか。

この盤の音源は,Geoff Hawryluk氏が,前述のデモの半年前,2007年3月〜4月に首都ヤンゴンで収録したもの。音源はFM局らしく,音はクリアです。
短いトラックが44あり,トークのほか,音楽,CMなどの断片が散りばめられています。

おもしろいのは,1日数回放送されているらしい英語番組の音声が多く採り上げられていて,放送局名のほか海外向け短波放送の周波数のアナウンスも聞こえます。

聞こえる音楽ですが,軍事政権下と言え意外と多様です。
トラック1は,現地の事情を示唆するかのように軍歌が流れてきます。ただしそれ以外は,現地の民族楽器の音色のするものから,歌詞中に英語も入ったポップス・ロック,"洋楽"まであります。政治に触れなければ,ある程度の表現が可能そうなことが窺えます。

[参考情報]

ネット上のミャンマーのポップスの日本語の情報ですが,案外あるものです。
中でもビルマ文化全般を扱った「バダウ〜ビルマよもやま話」中に,充実したビルマポップスの解説ページがあります。


Radio Niger (SF086)

こちらは,西アフリカ,サハラ砂漠の南に位置する,ニジェールのラジオ音声のフィールド・レコーディング。
2004年から2007年にかけて,Hisham Mayetによって収録された旨,クレジットされています。

言語は,現地語(ハウサ語?)のほか,フランス語も聞こえます。
track1では局名アナウンスらしきもの,track3ではフランス語で,"Radio France Internationale"のアナウンスも聞こえます。

全体的に,音楽をメインにミックスされています。
音楽は生活感のあるアコースティックなものから,ジャズ・ロック的な音のものも。
パーカッションの音の目立つ,西アフリカらしい反復を多用した音楽が,ラジオの音でめいっぱい楽しめます。


Radio Vietnam (SF095)

ベトナム編の音声は,Mark Gergisが2013年から2014年にかけて,ハノイとホーチミンで収録したもの。

音楽を中心にミックスされていますが,内容は民謡風,ポップス,演歌風,民族楽器の演奏など多彩です。
track3ではラジオ体操らしきもの,track5ではアカペラの児童合唱なども聞こえます。

言語はもちろんベトナム語メインですが,英語の音声も随所で多く聞かれるのが本盤の特徴。
track1では英語の天気予報,track2では英語講座のスキットがあったり,英語ニュースの終了部分と思しき音声では"VOV5"(海外向けVoice of Vietnam,ベトナムの声)の局名が聞こえたりします。
さらにtrack3では,日本語放送でもおなじみのベトナムの声の開始テーマ曲なども聞こえます。


[参考]

日本サウンドスケープ協会が2001年5月27日,「ラジオとサウンドスケープ」というテーマでシンポジウムを開催し,ディスカッションも行っていたようです。
内容の一端は,ここ↓で知ることができます。

山田晴通「パネル・ディスカッション『ラジオとサウンドスケープ』のために」
http://camp.ff.tku.ac.jp/YAMADA-KEN/Y-KEN/rec/r010527.html

(c) 2005-2015 gota

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