片手にラヂヲ♪ ホーム短波ラヂヲの世界へのお誘い「楽器」としてのラジオ?!Paddy McAloon "I Trawl the Megaherts"

作成日:2005/03/22
最終更新日:2005/03/23

「楽器」としてのラジオ?!

Paddy McAloon
"I Trawl the Megahertz" (2003)


1. I Trawl the Megahertz/2. Esprit De Corps/3. Fall from Grace/4. We were poor .../5. Orchid 7/6. I'm 49/7. Sleeping Rough/8. Ineffable/9 .... but we were happy
(英EMI 7243 5 83910 2 2)

「私はメガヘルツで網を引く」という,妙なタイトルが気を惹きます。
"Megahertz"という語句から想像されるような,ラジオ素材の音バリバリの音楽ではないのですが,コンセプトにラジオが深く関わり,かつ一風変わったラジオのイメージが感じられる,興味深い一例です。

Paddy McAloonは,1982年にレコードデビューしたイギリスのバンド"Prefab Sprout"のリーダー。
ロックというよりはポップス的な作風で,1985年に出た2枚目のアルバム"Steve McQueen"(プロデュースはThomas Dolby[別項参照])が傑作とされています。もっとも,ほとんどの曲をPaddyさんが書き,バンドイコールPaddyさんといった様相ではあります。

"I Trawl...."は,そんなPaddyさんの初ソロアルバム。そもそもPrefab Sproutの作品がソロアルバムみたいなものなので,意外と言えば意外です。
だからこそか,内容はさらに意表をついていて,ポップスどころか,モダンな響きのストリングスを中心にしたオーケストラ(時折,サックスやトランペットがジャズ風味を加えてます)が奏する,イージーリスニングまがいのインスト曲ばかり。Paddyさん本人のボーカルも1曲のみという,ストイックというか,ファン泣かせというか,そんな1枚。

タイトル曲"I Trawl the Megahertz"は,アルバムの冒頭を飾る,淡々と続く女性の朗読をともなった,しかも22分もの1曲。
"Megahertz"というタイトルから期待するような,ラジオ素材の音とかはいっさいなし。で,これのどこが,なんで"Megahertz"なんでしょうか?

CDに付されたご本人の解説によると,1999年,Paddyさんは目の手術をしてキーボードもPCの画面も見えない生活をしていました。そんな折,ラジオやTVの番組,視聴者が電話で参加する番組,トークショーなどを聞きつつテープにとっていたそうです。そんなことが発端になって,着想された曲とのことです。
(話はそれますが,入院ですることがなく「BCL」を思い出し,再びラジオを聞くようになったという人が,私のまわりにもけっこういます。^^;)

なので,Paddyさんによると,"I Trawl...."は「選ばれた記憶を振り返ることで,人生を理解しようとする一人の女性の肖像のようなもの」で,彼女は「遠くの放送にチューンして,違った放送の断片を聞いている」かのような人ということになっているようです。

"I Trawl...."の,緩やかな弦の音の上にいくつかのパートに分かれて出てくる女性の話は,パート間の脈絡は薄く,一人の女性の物語というには,あまりにも曖昧模糊としています。(そこは,音楽の音楽たるゆえんでしょうけど。)

さらに,このアルバムの6曲目,"I'm 49"では,オーケストラの音に乗せ,放送を音源にしたと思われるさまざまな男女の声の断片が現れては消え,ときおりラジオのチューニング音のような音がしています。
そして,ところどころに繰り返し現れる,"I'm 49 divorced"という男性の声の断片が耳に残ります。(ミニマル音楽の大家,Steve Reichが弦楽四重奏にインタビュー音声の断片を組み込んだ,"Different Trains"[1988]に似た響きも感じます。)
これまた,物語ができているようでできてない,しかし一つの意識の流れが感じられます。そんなこの曲の構造は,まさに"I Trawl...."と同様です。Paddyさんが着想の基にしたという放送の素材を使ったということでは,"I'm 49"は"I Trawl...."の原型とも言えそうです。

ちなみに,この曲の後にPaddyさんのボーカルが聞ける唯一の曲"Sleeping Rough"が置かれています。これら(テクストをともなった)3曲が,このアルバムの核に据えられているのは明らかでしょう。

ジャケットも,タイトル,内容を象徴するような,白地に赤と青の複数のうねる曲線,さらに紫色の直線1本という構成。たゆたう波の中を貫く一つの意識の表現でしょうか。
このアルバムでのラジオは,さながら「記憶や人生の断片が漂う海」として位置づけられているのではないでしょうか?

しかし,よく調べてみると,このアルバムに至る伏線(?)が,さかのぼること20年,なんとPrefab Sproutのデビューシングルにあったのでした。

そのシングル,"Lions in My Own Garden"のB面に"Radio Love"という1曲があります。
Paddyさんにしてはわかりやすいシンプルなロックですが,逆に練り込みが足りない感じの曲ではあります。(よってこの曲は,今のところ未CD化です。)

この曲,サビにこともあろうに"shortwave for everyone"なんてフレーズを入れてます。
"shortwave"なんて,よほどラジオに明確なイメージがないと,出てこないフレーズだと思うのですが,どうでしょう?

サビ以外のところは,私(ごた)には歌詞が聞き取りきれず,文脈がつかみにくいのですが,たぶん,この時期のPaddyさんの歌詞でなら,ラジオは孤独や疎外感の象徴みたいに置かれているのかもしれません。

"I Trawl...."は,Paddyさんの心の奥底のラジオのイメージが,20年後に再び形を変え(しかも洗練された形で)現れたのでしょうか?根本的なイメージは20年間不変なのか,なんらかの変容を経ているのか?実に謎めいた,音楽に現れたラジオのイメージではあります。


[参考サイト]
(Thanks ラルパンさん 2005/03/22,一部修正 03/23)


(c) 2005 gota

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