TVCF「母の国の声−トランジスタラジオ クーガ115」(1975)
- 日本盤DVD「もう一度見たい 日本のCM50年」(エイベックス・マーケティング IOBO 21074)収録
「BCL」ブーム真っ只中のCMは,先に大滝詠一作の「三菱ジーガム」のCMソングをご紹介していますが,当時のCM映像も市販のビデオに収録されたものがあります。音楽ではないのですが,カンゲキしてしまったのでご紹介。(^^;)
2010年11月に発売された,全日本シーエム放送連盟(ACC)の50年間のCMフェスティバル受賞作品を収録した,上記DVDに収録された「ナショナル・クーガ115(RF-1150)」(1975年制作)のCFです。
ある程度の年齢の人なら,他の同時期のCM映像にもカンゲキできるに違いないとは思いますが。(^^;)
「ACC賞/CM殿堂」を受賞しているだけあって,映像はなかなかドラマチックです。
黒人の青年が,テーブルの上に片手で抱えるように置いた「クーガ115」から流れて来る音楽を,気難しい表情をしながら聞いているところから始まります。
冒頭,"Voice of America"らしいアナウンスも聞こえます。
やがて,ペンダントの蓋を開け母親の写真を眺めます。ここで,ひらがなで「すし」と書かれたマッチ箱が写り,日本に来ていることがわかります。そして泣き出し,ラジオのスイッチを切り"Oh, mum, mum..."と一言,というもの。
その後,下から上に流れるテロップが「VOA」「BBC」「DW」「ORTF」「Radio Nederland」「Voice of Andes(HCJB)」の周波数を映し出し「日本で聞く母の国の声。世界の短波を鋭く捕らえる5バンド,クーガー115」とナレーションが流れます。
当時「BCL」が一大ブームだったことは,当時小学生だった筆者の記憶にもあります。しかし「ジーガム」同様,こうしたハイクォリティなTVCMがあったとは信じがたいというか,隔世の感はぬぐえません。(^^;)
大瀧詠一「三菱ジーガム」
- 「ナイアガラCMスペシャル」(1977,ナイアガラ SRCL3215)収録
かつての"BCLブーム"の頃は,マスメディアでも"BCLラジオ"のCMがありました。
「三菱ジーガム」のCM (1973)には大瀧詠一の歌が使われ,彼のCMソングを集めた「ナイアガラCMスペシャル」で,2バージョン聴くことができます。
CM作品のCD化は多数ありますが,"BCLラジオ"のものは珍しく,かつての大ブームを偲ぶ資料としても,興味深いものです。
ジャケには,大瀧氏を囲む収録の商品多数に混じり,「ジーガム」と張り紙をされた商品が写っています。
[追記]
2007年3月21日,上記CDの30周年記念盤「NIAGARA CM Special Vol.1, 3rd issue, 30th Anniversary Edition」(ナイアガラ/ソニー SRCL5007)が発売されます。
発売に先立ち「レコード・コレクターズ」2007年4月号でこのCDの特集が組まれ,収録された全曲目の解説があります。
「ジーガム」については,上記2バージョンのほか,デモバージョン,15秒の短縮版,さらにはこの曲をアルバム用に発展させようとした「ジーガム[ムーン・セッション]」(メンバーは本人のほか,林立夫,細野晴臣,佐藤博)が追加収録されています。(ただし,1977年発売のオリジナルLP収録の英語版の収録は,今回もありません。)
地味なラジオのCMソングと言えども,実にマニアックな展開ぶりです。(^^;)
AMM
- "AMM Music 1966" (イギリス盤 R e R Megacorp AMMCD)
- AMM III "It Had Been An Ordinary Enough Day In Puebro, Colorado" (JAPO 60031 843 206-2)
前者は「現代音楽の古典」,後者は「フリージャズの古典」。
AMMもまた,メンバーが楽器のほかに"transistor radio"を持って演奏をするのが特徴です。
ただ,AMMでのラジオの役割は,Stockhausenのような羅針盤でもなく,Cageのような「偶然性・不確定性」実現の道具でもなく,アナーキーな演奏の味付け程度みたいです。
実際,AMMでのラジオは,どっちかというと脇役で,比較的ラジオ度は低いです。
でも,"transistor radio"というパートの存在は気になります。
他のラジオを使った作品と違って,ラジオの音が無秩序な演奏の奥から見え隠れするように聞こえると,逆に現実に引き戻されるような感じさえします。なかなかオツなラジオの音です。(^^;)
The Black Dog "Radio Scarecrow" (2008)
- 英盤 Soma Recordings SOMACD067
90年代からUKテクノ・シーンで活躍している,Ken Downie率いるグループの2008年作品。
このグループ名から,Led Zeppelinがどうしても頭から離れないのは,筆者の年齢がなせるワザかと。(^^;)
タイトルに「ラジオかかし」(あるいは「ラジオお化け」か)と名付け,実際インタビュー(下記参照)でも,短波や暗号放送,EVP(別項参照)に興味があるし,それは一層謎めいてくると話しています。
とくに暗号放送については,それがどういう意味なのか説明できないところが素晴らしい^^;と言っていたりもします。
本作では,タイトルどおりラジオの音が随所で聞こえています。
曲にも"Transmission Start","Set To Receive","...Shortwave Lies","Dials & Dialers"といったラジオにゆかりのあるタイトルが並んでいます。
とくに"Floods v3.9"(12),"Dials & Dialers 1"(15),"Dials & Dialers 2"(17)では,かの暗号放送の音声も使われています。
"Train By The Autobahn"という収録曲のタイトルに現れているように,全体的の印象は,Kraftwerkチルドレンの奏でるダンスビートという感じです。
ラジオの音がガンガンしているものではないのですが^^;,テクノ的には秀作。
<参考サイト>
Sylvain Chauveau "Radiophonie n°1, 2, 3"
- "Nocturne Impalpable" (2001, フランス盤:Les Disques du Soleil et de L'acier c-dsa 54076)収録
Sylvain Chauveau(名前の読みは"シルヴァン・ショーヴォ"という感じらしいです)は,ミニマル的な音楽や,エレクトロニクスを加えた室内楽を得意にし,2000年代に入って数枚のアルバムを発表しています。
アルバム"Nocturne Impalpable"は,室内楽+エレクトロニクスの穏やかな音楽。同傾向の坂本龍一作品に似た感じですが,ホントに坂本氏もお気に入りに挙げています。
"Radiophonie"は,アルバム全19曲中の曲間に間奏曲的に配置されています。ラジオそのものの音は"2"で少し聞こえる程度です。
ここでのラジオは,アルバムタイトルに示されているような,触ることも感じとることもできないけどそこにあるという微妙な存在の象徴かもしれません。
ラヂヲ的音響を期待すると物足りないものの,アンビエント・ミュージックとしては確かに傑作。
<参考サイト>
(2008/01/11 一部改訂 01/19) トップに戻る
Dial "Retro 01"
ニュージーランド出身で,短波ラジオとターンテーブルという変わった取り合わせという以外,さっぱり情報のないユニットのおそらく2001年リリースの1stアルバム(Eden Gully 001 / CD-R)。ほか,カタログNo.で003まで作品が出ているようです。
アルバムには3曲収録されていて,クレジットによるといずれも2001年9月下旬の地元NZでのライブで,確かに音はやや遠めに聴こえます。
内容は,リズムもメロディーもないノイズの音塊が延々続くもので,その中に短波のノイズがそれとわかるように聞こえています。けど,ただそれだけで,感動も感想もないです。(^^;)
ただ,あえて採り上げたのは,ユニットの中心人物と思われるDavid Merrittなる人物による紹介文がちょっとおもしろかったからです。(公式サイトはすでに閉鎖されているようで,"Internet Archive Wayback Machine"で見ることができます。)
"Transistors as instruments."という一文に始まり,非伝統的作法での音響制作のためにラジオを使い始め「短波ラジオは終わりのない操作を可能にしてくれるのがおもしろい」と言います。
この長い文章の後半は,短波→アマチュア無線→PCというメディアを比較した文化論のようなものにまでなっています。(ことにアマチュア無線の採り上げ方に,この人自身ハムなのではと思えます。^^;)
Jonny Greenwood "Popcorn Superhet Receiver"
あのRadioheadのギタリスト,Jonny Greenwoodが作曲した,弦楽オーケストラのための作品です。
曲名はラジオに関係ある言葉を調べて,"superhet"(スーパーヘテロダイン,ラジオによく使われる回路構成の名称)という言葉がぴったりくると感じてつけられたそうです。
曲中にはラジオの音そのものは使われていませんが「ラジオとか電波とかそこには存在していない音楽が聞こえる」というアイデアがあったようです。
曲を聴くと,最初にうにょうにょ音程が動く不協和音の音塊(トーン・クラスター)が聞こえてきます。わかる人には,同様に弦楽オーケストラでトーン・クラスターを駆使した,ポーランドの現代作曲家ペンデレツキの「広島の犠牲者のための哀歌」の影響か,とすぐピンときます^^;。
まもなく,たゆたうようなゆったりしたパートに入り,中盤にはリズミカルなフレーズも現れます。曲の最後の方では,奏者がいろいろな言葉を発するところもあります。
意外な人の意外な作品ですが,2004年にはBBCの"composer in residence"になっていて,本作はその2作目です。
13歳か14歳の頃,音楽の授業で聞いたフランスの現代作曲家メシアンの音楽に感銘を受けたと言い,使用楽器にもメシアンが多用した電子楽器オンド・マルトノがあるようです。
<参考記事>
Ryoji Ikeda "Channel X"
- "1000 Fragments"(1995,CCI Recording CCD 23001)収録
この作品の30秒の一パート"radiorange"に,短波放送の音声らしき,
"from Washington"(VOA?)
とか
"This is London"(BBC?)
などのアナウンス音が聞かれます。
これは,日本BCL連盟「MY WAVE」誌1997年5月号にp9.に紹介されており,記事によると,この音は当時放映されていた丸紅のイメージCMでも使われていたようです。
ただし,ごく短い時間,何の思い入れもなくそっけなく流れるだけのオブジェ的利用。ワタクシには,ギョーカイ内向きな感じがして非常につまらない一例。(~~;)
John Lennon / Yoko Ono "Radio Play" (1969)
- "Unfinished Music No.2 : Life with the Lions"(米国盤 Rycodisc RCD 10412)収録
ファンの間でも悪名高い,ジョン・レノンとヨーコ・オノの前衛音楽3部作の2作目に収録の,約13分のラジオネタ音楽。
ここでのラジオは,一定のテンポで一瞬だけパルスのように音を出し続ける,ミニマル的な印象のものです。それ以外の音は,バックにところどころジョンとヨーコの会話が入ってくるだけです。
ラジオの奏法は,最初の3分間くらいは,ボリュームかスイッチのオンオフで一瞬だけ音を出している感じですが,それ以降はチューニングをずらしきってシャリシャリしている音(スプラッシュノイズ)のようです。そして,最後にまた冒頭同様の音に戻ります。
いずれにしても,ラジオの音は一瞬一瞬で,クリックノイズのようにしか聞こえないところが多く,何の音かは判別しにくいです。
小野洋子には,ジョン・ケージ(別ページ参照)の影響もあるので,ケージばりの無作為っぽいラジオの音垂れ流しかと思いきや,リズミカルな音楽らしさがあるのが意外です。
ここでのラジオは,あえて「楽器」でないもので「音楽」を仕立て上げる意図かもしれません。
本作にはほかに,絶叫+ギターのフィードバックの「音響系」("Cambridge 1969"),聞きようによっては「ヒーリング」^^;にも通じる胎内音("Baby's Heartbeat")という,発表から40年経過した今だからこその発見もある一枚でもあります。
Udo Lindenberg "Sex im Radio" (1993)
- "The Collection" ドイツ盤 Spectrum 554518-2 (3CD)収録
なんとドイツ語のポップスです。
ドイツ語は不得手な筆者ですが,それでもタイトルは「ラジオでセックス」てなところだというのは,すぐわかります。
それにしても,意表をついたタイトルです。(^^;)
ところどころフランス語や英語も交えた,けだるいドイツ語のラップです。
4分半の曲の冒頭10秒ほどに,ラジオのチューニング音が聞こえます。
"Sex im Radio"と繰り返す女性コーラスが印象的。
ネット上にドイツ語の歌詞が見られるところがあったので,翻訳サイトを使って英語にしてみたのですが,かなり刺激的な歌詞が並んでいるようです。
それでも,ラジオとセックス,そのココロは?ラジオは妄想の象徴なのか,とか,やっぱりよくわかりません^^;。
Udo Lindenbergは,1946年生まれのドイツのロックミュージシャン。70年代から現在に至るまで,現地ではシンガーとして大スターです。
プログレのファンなら,ジャズロックバンド,Passportの1st(Amon Duul II関係者参加)にドラマーとして参加しているのが知られているかもしれません。
<参考サイト>
Ralph Lundsten
"Ut i vida varlden (Out in the Wide World)"
Ralph Lundsten (1938-)といえば,知る人ぞ知るスウェーデンのニューエイジ風シンセ使いの人です。が,なんと短波で聞こえる,Radio Swedenのステーションシグナルの作曲者でもあります。
この曲"Ut i vida varlden"は,"Nordic Nature Symphony No 4 'A Summer Saga'"(1983)中の1曲です。北欧のイメージを伝える,のどかなメロディーです。
この曲には歌詞はありませんが,出版されているピアノ譜には,各国語で詩も添えられています。
この曲をRadio Swedenに採りあげられ,本人ご満悦の様子で,この曲は自身のWebサイトのトップからダウンロードできるようになってます。(「スウェーデン国歌みたいなもの」なんてコメントまでありです。^^;)
イナカの音楽家,なんてナメてはいけません。1960年代からの,スウェーデンにおける電子音楽の先駆者としての功績も見逃せません。初期の現代音楽スジでの先鋭的作風も,電子音楽ジャンキーのみなさんにはたまらない音です!(と,ヒトゴトのように言う私^^;A)
Paul McCartney
- Wings "Reception","The Broadcast" (1979, "Back To The Egg"[CD:東芝EMI TOCP-3133]収録)
このページに,ビートルズ以来の流麗なメロディーメーカー,Paul McCartneyは全く意外でしょう。が,案外実験的サウンド大ありの人です。ラジオに思い入れはさしてなさそうですが,一時期のJohn Lennon同様John Cage(別項参照)の影響を感じる作風の曲があります。
Wings最後のアルバム"Back To The Egg"冒頭1分のイントロダクション"Reception"は,オープニングの「歓迎会」と思いきや,いきなりラジオの音が渦巻く「受信」だったのでした(実際"Radio"という仮題もあったようです)。曲はこの音にファンキーなインストが乗って進みます。
後述文献によると,音源はラジオ番組「ルーテル・アワー」,後述の"The Broadcast"のセッションで録音された朗読等ですが,短波のデータ通信の受信音も聞こえます。最後にダイヤルを回す音が聞こえ,チューンして2曲目"Getting Closer"が始まる仕掛けです。
この時期のメジャーどころのポップスにしては異様な音響ですが,当初はもっと長い曲としての構想さえあったそうです。
"The Broadcast"は,アルバム後半のインターリュード的小品。ピアノとストリングス(この音はギズモらしいです)をバックにした詩の朗読もまた異色です。ただし,音も詩もラヂヲ絡みの印象はありません。何かを呼びかける内容の詩で,ここでの"broadcast"は「放送」というより「宣伝」の意味合いでしょう。
ラヂヲ的には,はずれ^^;ですが,これまたCageの朗読を伴う作品が思い起こされます。
余談ですが,その14年後の変名のテクノユニットThe Fireman "Strawberries Oceans Ships Forest"(1993, CD:米Capitol 8 27167 2]収録)でも,"Reception"ほど派手ではありませんが,ラジオの音が2曲目"Trans Lunar Rising"冒頭と,続く3曲目"Transcrystaline"冒頭で聞こえます。
ここでとりあげた"Back To...."と,続く"McCartney II"(1980),The Fireman名義の作品などは,いずれも本筋のファンの評判は芳しくないです。でも,このページの記事がよ〜く理解できるごシュミの方にはオススメしたい,(良い意味での)ヘンテコな作品群ではあります。(^^;)
[参考文献]
イアン・ピール(著),角松天(訳)「ポール・マッカートニーとアヴァンギャルド・ミュージック」,ストレンジデイズ,2004
(Thanks ラルパンさん 2005/08/13,改訂:2005/08/16,08/22)
Flippo Tommaso Marinetti (1876-1944)
"Cinque Sintesi Radiofoniche" (1933)
- Antologia Sonora "Musica Futurista" (イタリア盤CD CRAMPS CRSCD 046/047)収録
以前から,「ラジオ」が絡む音楽は気になっていたのですが,では,
最初に「ラジオ」が標題になった音楽
「ラジオ」の音を取り入れた音楽
は何だろうか?と考えるようになりました。(これまた,皆様からの情報提供もお待ちしています。<(_ _)> )
そんな中,手元にあったCDの中に,後者の一例と思われるこんなものがありました。
このCDは,20世紀初めの美術運動「未来派」の音楽作品を集めたものです。この一派の特徴を簡単に言えば,都市の音,騒音を積極的に取り入れた音楽,ということになるでしょうか。
当時の音が残っていないらしく,このCDでは曲を再演(再現?)したもののようです。水音に始まり,長い沈黙も含め様々な音が出たり消えたりしています。
ラジオをコンセプトに取り入れた,ごく初期の例と思われます。
"MORSE CODE IN MUSIC"
短波放送の情報サイト,Glenn Hauser's World of Radioの
"DX Listening Digest 2-033, February 27, 2002 "に,"MORSE CODE IN MUSIC"という興味深い記事が出てます。
音楽+モールス信号という切り口にはまた,ひと味違った深み(はまったらこれまた泥沼か^^;)があります。
(2002/03/15)
「音楽+モールス信号」ということでは,筆者未聴ですが,日本の現代作曲家,松平頼暁 "Messages I"(1972)は,テキストをモールス信号化し木管合奏で演奏する作品です。
作曲者によると,この作品は「テキストを選んだ段階で作曲が終わっている」「作曲の手続きの逆転」の試みとのことです。どんな符号が聞き取れるのか,聞いてみたいですねぇ。^^;(参考文献:川崎弘二「日本の電子音楽」愛育社,2006)
New Wilderness "Shortwave"
- "The Wilderness Beyond" (2008)収録
アメリカのインディーズCD販売サイト"CD Baby"でみつけた「短波」ネタの音楽。
ギターのBarry DiGregorioとヴィブラフォン,管楽器のWayne Webb,ゲストベーシストのJohn Martiniによる演奏。
ニューエイジに分類されていますが,全体的にはアンビエントっぽく,ジャジーな即興もあれば,電子的に変調されている音もあり,分類しにくい作風です。
宇宙と地球の自然がテーマですが,Barry DiGregorioが"宇宙生物学"の研究者,サイエンスライターでもあるという背景から,こうしたテーマが選ばれているようです。
その中に「短波」があるのですが,解説によると「短波」の音は,太陽や電離層の活動と捉えられているようです。(実際,その直前のトラックは"Solar Event"です。)
解説によると,この曲のユニークなところは,作中では短波の音は直接使われておらず,短波の音を聞きながらセッションした楽器の音で表現しているところです。
なんとなく元の音が想像できるような,またそうでないような音楽的なフレーズもある,即興的な音響が13分続いています。
そんな演奏は,アルバムのテーマをきっちり表現できていて,聴いてて飽きさせない良作です。
"Offshore Radio Themes"
主に民間放送が認められていなかった時代のヨーロッパに公海上の船上から放送する海賊放送(Offshore Radio)が数多くありました。
そんな海賊放送のデータをまとめた上記Webサイトに,海賊放送を採りあげた曲を紹介した"tribute songs"のコーナーがあります。中には,Status Quoなんて大物も。
当時,海賊放送がリスナーだけでなく,ミュージシャンの心もとらえていた魅力ある存在だったことが伝わってきます。
Outsiders "CQ"
知る人ぞ知る,60年代後半のオランダのガレージバンドOutsidersの,1968年発表の2ndアルバムです。
タイトルの"CQ"は,無線用語で「どなたでも応答してください」の意味で,アマチュア無線をやってる皆さんには必須の語句でしょう。そもそも"CQ"が何の略なのかは諸説あって,"Come Quickly"だとか"Seek You"とか,いろいろ言われてはいます。
アルバムの3曲目に,3分半のタイトル曲"CQ"が収録されています。サイケな「でろ〜ん」としたギターで始まります。歌はなく,ザーッという短波のフェージングを模したと思われるノイズとともに,誰かに呼びかける風の声が入ってきます。途中,何度も"Do you receive me"と繰り返してます。そして最後に,爆発音の効果音が入って曲はあっけなく終わります。"CQ"の意図は,結局よくわかりませんけど。(^^;)
Outsidersは,荒々しいライブトラックを含む1st"Outsiders"の評価が高いのですが,この2ndもひねりの加わったサイケの好盤です。
なんと言っても,ラストの"Prison Song"は,プログレバンドが30分かけてやることを5分半でたたんだ,サイケの極北です。(至福^^)
* 現在入手可能なCDには,蘭Pseudonymからのオリジナル+ボーナストラックの盤と,蘭Hunter Recordsから出ている1stとの2in1盤がありますが,私(ごた)は後者(HMR15822)を入手しました。
Prefuse73 "Radio Attack"
- "Vocal Studies + Uprock Narrations" (日本盤 Beat Records BRC-38) 収録
1997年以来,アメリカで活動中のScott Helenのプロジェクト。ヒップホップ的なリズムにラップのほか,様々な音のコラージュやノイズがまぶされています。(しいてジャンルを言えば,"クラブミュージック"でしょうか。)
"Radio Attack"は,2001年にリリースされた1stアルバムの1曲目。この曲の"Radio"たるゆえんは,ラジオはラジオでもFMラジオの音を模しているというのが,ちょっと意表をついてます(^^;)。
リズムトラックが,ちょっと電波の弱ったFM放送風に歪み,随所にチューニング音のような音も入れています。
若い世代がストリートで鳴らすラジオは,もはや"AM"ではなく"FM"なのでしょう。そんな感覚がイキイキと伝わってくる作品。アルバム自体も,この種のものとしては傑作です。
(Thanks ラルパンさん 2005/03/28) トップに戻る
R.E.M. "Radio Free Europe"
アメリカのトップバンドの一つ,R.E.M.のデビューシングルが,西側の対東欧向け放送と同じ名前の"Radio Free Europe"(1981)でした。
内容は同局や東欧のことを直接歌うわけでもなく,社会と個人の関係を歌っている感じですが....。
David Sylvian
David Sylvianは,Japan解散後のソロ"Brilliant Trees"(1984)以後のソロアルバム数作に,短波ラジオの大家,Holger Czukayさんをゲストに呼んで以来,共作のアルバム"Plight & Premonition"(1988),"Flax & Mutability"(1989)も作っています。
そして,Sylvianさん自身にも短波ラジオを使った作品が見られるようになります。
特筆したい作例としては,傑作との呼び声高い,元Japanのメンバーによるユニット"Rain Tree Crow"(1991)があります。ここでは,アルバム全体の静謐なムードにとけ込んだ,きわめて個性的なラジオの使い方がされています。
CDのプレイボタンを押すと,ごく小さな音量の短波ラジオの音から1曲目"Red Wheels In Shanty Town"が聞こえ始め,曲中にもごくさりげなくラジオの音が入っては消えていきます。
続く2曲目"Every Color You Are"にも,"shortwave radio"のクレジットがあるのですが,耳をそばだてても,一瞬それらしいものが聞こえるかどうかの,本当に控えめな使い方です。しかし,こうしたかそけき音が一つ欠けても,作品が変わってしまうと言えるほどの,緻密な音響が構築されています。
Czukayさんのラジオが"painting"なら,Sylvianさんのラジオは,料理の"塩ひとつまみ"(^^;)に例えることができるかもしれません。音楽での短波ラジオの使い方としては,最も作品の"内側"に溶け込んだ一例と言えるでしょう。
(2004/05/15) トップに戻る
「テルミン」Theremin
「オンド・マルトノ」Ondes Martenot
ラジオと直接関係はないかもしれませんが,最近,みょーに話題になっている,1920年代に開発された電子楽器なわけです。
これは2台の周波数の異なる高周波発振器,つまり,電波をこしらえるメカが組み込まれていて,その出力をミックスして生じるビート音(ヘテロダイン現象)を利用したものです。(当時のテルミンの高周波発振器は,170kHzを使っていたそうです。)
これって,わずかな周波数差のある放送が混信した時の,あの「ピーッ」といういやな音という理解でよろしいのでしょうか....f(^^;)そういう音を楽音として使う発想があったのですね!
今のシンセサイザーも,最新テクノロジーの塊なのですが,1920年代の電子楽器,テルミンとオンド・マルトノもまた,「ラジオの時代」の最新テクノロジーの産物と言えるのでしょう。
[参考文献]
テルミンについては当時の演奏の第一人者,Clara Rockmoreの録音
"The Art of Theremin" (アメリカ盤CD Delos DE1014)
をオススメします。
この盤には,学生時代にアルバイトでテルミンを作ったり,その後も受注生産をしていたという,かのRobert Moogが,解説をつけています。
This Heat "Radio Prague"
- "Deceit" (1981,イギリス盤CD Those Records HEAT2 CD)収録
"Radio Prague"と言うと,その受信音をストレートに使ったOMDの作品(別ページ参照)がありますが,こちらはもっと前衛的なバンド。その"Radio Prague"の使い方はまた一味違っています。
低く小さな音で,「ととととと」と終始続く機械音(?),部屋の中で遠目にラジオを鳴らしている音,時折「かちん」とパーカッションらしい音がしています。
ラジオの音は,時折ボリュームやダイヤルがいじられています。ただ,聞こえている音が"Radio Prague"なのかは確かめようがない音ではあります。
2分半ほどのごく短い曲で,前後のつなぎという感じもします。
リリースされたのは「冷戦」の時代でもあったので,"政治"がテーマだったのでしょう。
アルバムの最後には,日本人にはそのタイトルが響く"Hi Baku Sho (Suffer Bomb Disease)"と題された曲もあります。
小杉武久"Catch Wave"
- 小杉武久「キャッチ・ウェイブ」(国内盤CD:Showboat SWAX-502)
1970年代の「タージ・マハル旅行団」など,即興演奏で知られている人ですが,「ラジオ少年」だったという出自から,キャリアの初期からエレクトロニクスを駆使した作品が多くあります。
テルミン同様の原理でのインスタレーションや,高周波発振器と受信機を紐で吊して動かすなどして音を変化させる"Catch Wave"と称するコンセプトの作品を1960年代から1970年代に展開しています。
現在CDで聞くことができる"Catch Wave"の作品では,小杉自身のバイオリンや声のドローンを素材にして,音色が緩く変化していくプロセスが堪能できます。(ラジオの受信音等はありません。)
音楽とラジオというと,受信音ばかりがイメージされがちですが,テクノロジーの展開の端緒に「ラジオ少年」があったことに興味深いものがあります。
[参考文献] 川崎弘二「日本の電子音楽」p.127-141 (愛育社,2006)
タモリ「世界の短波放送 World's BCL」
- 「タモリ」(1977,国内盤:Sony Music Direct MHCL-1238)収録
タモリ氏初期の,有名な海外日本語放送の物真似芸を収録した作品。
超有名なためかえって盲点でしたが^^;,2007年12月にCDが再発されたので,この機会に採り上げました。
この4分42秒のトラックは,ハムの免許も持ち,日本短波放送で「BCLワールドタムタム」というBCL番組も担当したタモリ氏の真骨頂でしょう。
「ラジオ・オーストラリア」「アンデスの声」「北京放送」の順で収録されています。
ただ,そのいずれもが後に日本語放送を終了,もしくは放送局名が変わっていて,時の流れを感じます。実際の放送を聞いたことがなくても,おもしろいことはおもしろいのですが…。
ご存じの方には説明はくどいかもしれませんが,短波で音が強弱を繰り返す現象(フェージング)を,口に手をあてて声をこもらせることで再現しています。それぞれのパートの前後はチューニング音のエフェクトが入っています。
「オーストラリア」では,"ワルチング・マチルダ"のメロディー(これは楽音)に続いて,英語,日本語のアナウンス,さらに放送開始時の名物,ワライカワセミの鳴き声もやっています。
「アンデス」では,"さくらさくら"のメロディーに開始アナウンス,さらに"ラテン音楽"として"キサス・キサス・キサス"と題した曲を,例のスペイン語風言語(^^;)で歌っています。
「北京放送」は,最も有名な芸でしょう。"東方紅"のメロディは自身で歌い,アナウンスに続いて"珍しいニュース","やさしい百万人の中国語",さらにノイズの合間に周波数アナウンスが聞こえて,このトラックは終わり。
そしてそのまま次のトラック「お昼のいこい」につながります。ネタ元のNHKラジオの番組そっくりのテーマ音楽がイカしています^^;(鈴木宏昌氏の作・編曲で,後の幻の傑作「タモリ3」での歌謡曲のパロディで,そのセンスが炸裂します)。
ほかラヂヲ的には「FEN」で,まくしたてる英語のそのムードだけを見事に抽出した芸が秀逸。(英語が全くわからなかった頃は,確かにこんな風に聞こえてましたわ。^^;)さらに,この中に"外国人に聞こえる日本語の物真似"まで織り込まれてます。神業です。^^;
それにしても,後のタモリ氏の大活躍,影響力を考えると,短波ラジオにインスパイアされた芸としては,至上のものと言えるかもしれません。(^^;)
羅百吉(D.J.Jerry)「電波」
- 「新歌+精選」(1995,台湾盤 Alpha Music 35CD-60017)収録
90年代初めから,台湾のヒップホップの祖として,またセッションでの打ち込みにも定評のあるアメリカ出身の彼のベスト盤+新曲。
2曲目の新曲「電波」は,台湾のラヂヲネタかと身を乗り出しましたが,あまりそっちとは関係のないテクノ歌ものでした。
しかし,1曲目の"Intro"が,なんと合唱付きのロシア国歌そのまんまだったりします。ワタシ的にはかつての「モスクワ放送」開始時のおなじみの一曲でもありますが,いったい何を意図しているのでしょうか。(^^;)
ちなみに,リミックスで収録のデビュー作「I Don't Wanna See No 歐巴桑」("歐巴桑"は,台湾に定着した日本語の一つで,"おばさん"と発音)は,中華ポップス不朽の名作。^^;
"The Ghost Orchid - An introduction to EVP"
- 英国盤 Ash International PARC CD01 (1999)
いわゆる「幽霊ボイス」ばかり収録(英語の解説含め79トラック,63分36秒)した,オカルティックなCDです。(^^;)
"EVP"は,"Electronic Voice Phenomena"の略で,耳には聞こえないものの,電子機器で再生すると,人の声(もしくは音声)が聞こえるという現象です。
その"電子機器"には,ラジオ,さらに短波ラジオも含まれています。
このCDに収集された事例の中にも,短波のノイズが聞こえる中,その音がほんの数秒ぽっと現れて消えるという感じのものが少なからずあります。(このCDでは,各音声を3回繰り返して収録しています。)
ただ,このCDの事例は,それらしいノイズが聞こえるというレベルのものではなく,かなりはっきり言葉が判別できるものばかりです。
あまりにもはっきり聞こえるので,神秘性も怖さもさっぱり感じられません。^^;(このCDの音だけでは,収録プロセスがわからないので,真贋も確証が持てないわけですが。)
膨大な数の電波やノイズが飛び交うラジオの広大な世界の中に,もしかしたらこんな音が埋もれているのかも,というファンタジーがあると,楽しみが増えるのかもしれません。(^^;)
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