片手にラヂヲ♪ ホーム短波ラヂヲの世界へのお誘い「楽器」としてのラジオ?!Kraftwerk

最終更新日:2004/07/18

「楽器」としてのラジオ?!

Kraftwerk

"Radio-Activity" (1975)

Kraftwerk "Radio-Activity" cover
1. Geigercounter 2. Radio Activity 3.Radioland 4. Airwaves 5. Intermission 6. News 7. The Voice of Energy 8. Antenna 9. Radio Stars 10. Uranium 11. Transistor 12. Ohm Sweet Ohm

日本盤CD 東芝EMI TOCP 53095
ほか,輸入盤でドイツ語バージョンもありますが,内容はほとんど変わりないです。(^^;)

これまた有名な元祖テクノ,Kraftwerkが各国で大ヒットさせた"Autobahn"(1974)のあとを受けて出されたのが本作でした。
ジャケット制作のために蚤の市を回って見つけたという,戦前の短波ラジオをジャケットの裏表にあしらい(裏はリアパネル),タイトルや歌詞は「ラジオ」,「原子力」からイメージされるものが並んでいます。

本作の「ラジオ」というコンセプトは,P.ビュッシーの著書(参考文献の項参照)によれば,1974年にツアーを行ったアメリカ各地のラジオ局に触発されたものといいます。
もっとも,彼らの「ロボット」などの工業的意匠(あくまで20世紀的,ですが)は一貫したもので,1st "Kraftwerk" (1970)から曲に"Megaherz"などと無機的なタイトルをつけるなどしていました。
それに加えて,シャレのつもりか「放射能」をひっかけています(本作のタイトルはあくまで,"Radio-Activity"と分かち書きをしているのに注意)。当時,プロモーションフォトにも原発で撮影した写真を使うなどしたため,原発礼賛とも見なされたこともあったようです(実際には,1992年,英Sellafield第2原子炉建設に抗議するコンサートに参加するなど,反原発の姿勢を示しています)。

1曲目"Geigercounter"は,タイトルどおり放射能測定器の反応音を模したと思われるポツッ,ポツッというノイズで,そのシーケンスが早くなり,そのまま2曲目"Radio Activity"のリズムにつながっていきます。
"Radio Activity"は,本作では数少ないポップス的な曲ですが,チカラなさそうに(?)淡々と歌っていて,後々確立するロボットバンド的イメージの発端を見いだせます。

"Radio Activity"には,前奏や間奏にアルバムのコンセプト「ラジオ」を象徴するモールス信号が聞こえます。
まず,CDのトラックの最初の10秒目ほどで,"radioactivity is in the air for you and me"と歌詞の一部を,3分50秒頃にも同様"radioactivity..."で始まる符号が聞こえますが,ドイツ語の符号なのか(?),はっきり意味が取れません。そして4分45秒頃には"kraftwerk"と聞き取れます。
まあ,このモールス信号は,"Wireless Fantasy"(別項参照)のような深い意味はなく,小道具くらいに考えて正解でしょう。(^^;)

続く3曲目"Radioland"も,木魚のような音が緩く鳴る中,ラジオのチューニング音や信号音を模した音を小道具的に入れながら,力のないボーカル,ボコーダーの声が淡々と続いていきます。
4曲目"Airwaves"は対照的に,アップテンポのリズムボックスに,メロトロンの洪水の中,1行程度のドイツ語の歌詞が繰り返される,Kraftwerk流ディスコ(?)です。

アナログではA面ラストにあたる"Intermission"と"News"では,時報,ドイツの各放送局のジングル,ニュース読み上げるアナウンサーの声が素材になっています。(本作で,本物のラジオの音が使われているのは,意外に少ないのです。)
"News"では,それらの音を何重も重ねて,錯綜した音を作り上げています。例えば,"News"のトラック冒頭の時報の後には,こもった音ながら"Westdeutschelandfunk"と局名が聞き取れます。(ほかのアナウンスも聞き取れそうなので,ヒマな人は挑戦してみては?^^;)

アナログB面にあたる7曲目以降は,ボコーダーでドイツ語のステートメントが読み上げられている"The Voice of Energy"に始まり,続くラジオっぽい音が合いの手に入ってくる"Antenna"は,2曲目ととならび,数少ないポップソング風。
後に"Robot"でも出てくる「ピューン,ピューン」というシークエンスのある"Radio Stars",再びボコーダーサウンドの"Uranium"(最後にちょっぴりラジオのチューニング音が聞こえる)は,本作のカラーとも言える淡々とした声をフィーチャーした曲。
"Transistor"は意外にも,電気オルガンとシンセの牧歌的なメロディー("Trans Europe Express"[1977]に収録された"Franz Schubelt"に似てます),最後を飾る"Ohm Sweet Ohm"(もちろん"Home Sweet Home"のシャレですね)も,冒頭ボコーダーが"Ohm Sweet Ohm"と数回繰り返した後,おもむろに始まるオルガンとメロトロンのメロディーも,終始穏やかです(ボコーダーの音も,今となっては十分ほのぼのしてはいますが)。

アルバム全体としては,プログレ的構成や,厚めのメロトロンの音などがあるせいか,以降の極端に音数の少ないシンセティックな作品とは,ちょっと違った印象は受けます。
ただし,力の抜けきったボーカルや,端々に見えるユーモアの感覚は,現在まで綿々と続くKraftwerkの伝統(?)につらなるものではあります。

冒頭述べたように,本作の「ラジオ」(そして「放射能」)は,その後クラフトワークが纏う工業的意匠の端緒でしたが,そもそもグループ名からして「発電所」だったわけです。 その後「鉄道」,「ロボット」と変遷があり,どれもデンキの音で満たされ「機械的」だったかもしれませんが,未来的というよりはレトロで牧歌的でさえありました。そして"Computer World"(1981)で最先端に躍り出たか,と思ったら,現実の「コンピューター社会」に追い抜かれていたのは,意図的か偶然か,いささか暗示的ではあります。


参考文献

  • Pascal Bussy, "KRAFTWERK Man Macine and Music", SAF Publishing, 1993
    (邦訳:パスカル・ビュッシー,明石政紀訳,
  • 「クラフトワーク <マン・マシーン>とミュージック」,水声社,1994)
  • 明石政紀「ドイツのロック音楽 またはカン,ファウスト,クラフトワーク」水声社,1997
  • (上記"News"の局名アナウンスの正解は,この本のp.145で。)
  • Wolfgang Flur "Kraftwerk Ich war ein Roboter", St.Aendra-Woerdern: Hannibal, 1999
    (邦訳:ヴォルフガング・フリューア,明石政紀訳「クラフトワーク ロボット時代」シンコー・ミュージック,2001)
  • 「特集 クラフトワーク」(「レコード・コレクターズ」1997年3月号,ミュージック・マガジン)

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