片手にラヂヲ♪ ホーム短波ラヂヲの世界へのお誘い「楽器」としてのラジオ?!Karlheinz Stockhausen

最終更新日:2007/12/11

「楽器」としてのラジオ?!

Karlheinz Stockhausen (1928〜2007)

Karlheinz Stockhausen "Kurzwellen" cover

「短波」 "Kurzwellen" (1968)


現代音楽の分野では,短波ラジオそのものを生演奏で楽器として使うものもあります。
その代表作(曲名もまんまやんか)がこの作品でしょう。

これは,6人の器楽奏者がそれぞれ短波ラジオを持ち,ラジオから出てきた音を模倣したり変形して演奏するものです。ほとんどわけのわからんフリージャズのノリと思えばいいです。レコードを聴くと,ところどころ出てくるラジオの音に反応している様子がわかりますが....。

後述のStockhausen VerlagからのCD13の演奏は,休みなしで50分以上繰り広げられ,その中には,Radio Swissや,ムカシのBBCのステーションシグナルも聞こえます。(CDの解説に収められた当時の演奏風景の写真には,Telefunkenのラジオが一緒に写っています。)また,CD61の演奏では,イタリア・RAIの鳥の声のシグナルも聞こえます。

Stockhausenは,他にも60年代終わり頃に集中的に短波ラジオを使った曲を作っていて,ソロ奏者のための「螺旋」"Spiral"(1968),演奏時間2時間(!)の大作テープ音楽「賛歌」"Hymnen"(1966-67)(個人的には,バッハの「マタイ受難曲」にも匹敵すると思う)などが制作されています。

当時のStockhausenの作風は,大きな転換期にありました。
デビューした50年代には,音の一つ一つを理論的に決めて構築していました。が,じきに偶然性を導入したり,「短波」では,ついに自分で音の素材を指定しない方法になっていました。

ちなみに,譜面は基本的に「+」「−」「=」の記号が並んでいるだけで,聞こえてきた音の各要素について「より多く」「より少なく」「同じに」と指示するだけのものです。(ジャケットに見える記号がそれです。)「短波」や「螺旋」では,そうした方法で,演奏が繰り広げられています。
これらの作例に見られるように,Stockhausenのラジオは,まず音楽の流れを先導する役割があって,ノイジーな音は副産物とも言えるのかもしれません。

しかし,Stockhausenの短波ラジオの使い方には,ラジオの音の偶然性だけでなく,ラジオの「向こう側の世界」とのつながりを求めているようなロマンチックさも感じます。
転換期にあったStockhausenは,短波の音に心のよりどころを求めていたのでは,とも思えます。

実際,世界各国の「国歌」を素材にした「賛歌」は,短波ラジオから聞こえた多くの国歌から着想したようです。
冒頭,短波のチューニング音で始まり,随所にチューニング音やノイズが聞こえています。そこに,Stockhausenが考えているところの「最もよく知られている音楽」である各国の国歌がコラージュされ,最後は「すべての人類の呼吸のよう」な,静かな呼吸の音で終わっています。
短波は,すべての国,人類が一つにまとまっている場(当時は冷戦下でもあった)として考えられていたのではないでしょうか。

さらに,その後,ほとんど抽象的な言葉による指示(ほとんど詩!)だけの「直観音楽」も試みています。これにも短波ラジオを使った録音があって,こうした作品中のラジオは,ますますスピリチュアルな存在になっていると言えそうです。
また,短波ラジオの存在が,そのような作風に導いていったとも言えるのかもしれません。

事実,Stockhausenは,「短波」の解説でこう述べています。
「短波ラジオで受信するものの多くがすでに,言葉,ニュース,音楽,モールス信号の彼方の,まったく違った世界から届いているように聞こえないだろうか?」

ちなみに,彼は日本とも縁があり,こうしたラジオ的サウンドの音楽制作の発端が,1966年にNHK電子音楽スタジオに招かれ制作した「テレムジーク」"Telemusik"(1966,18分)だったというのが,我々日本人にとっても興味深いところです。
1970年の大阪万博の際にも,自身が設計監修した西ドイツ館の球形ドームで,半年間の会期中自作を演奏し続けていました。

近年の動きですが,1977年から2003年の長きにわたって,上演に一日4時間,7日間を要する大作オペラ「光」"Licht"を完成させています。
その発端も日本の国立劇場から委嘱された雅楽「光−歴年」"Licht- Der Jahreslauf"(1977,約25分)でした。(史上初の西洋人作曲の雅楽だったのです。)
しかも,このオペラにも,短波ラジオを持った奏者が登場する場面があるのだそうです!

さらに,それで終わりになるわけはなく,1日24時間を音楽で表現する24の連作「音」"Klang"にも取りかかり,しぶとさ^^;を見せていました。しかし,2007年12月5日,完成まであと数作というところで亡くなりました。(余談ですが,12月5日はモーツァルトの命日で,最後の最後まで凄みを感じさせます。)

今聞いている短波ラジオのノイズの中に,Stockhausenが彼方の世界から,その意志を送り続けているかのように思えてなりません。

(一部改訂:2003/01/05,2005/07/18,2007/12/08,12/11)

[参考CD]

  • "Kurzwellen" ドイツ盤(自主制作) Stockhausen Verlag CD13
  • "Litanei 97/Kurzwellen" ドイツ盤(自主制作) Stockhausen Verlag CD61
  • "Hymnen" ドイツ盤(自主制作) Stockhausen-Verlag CD #10 (2CD)
  • "Spiral/Pole" ドイツ盤(自主制作) Stockhausen-Verlag CD #15
  • "Telemusik" ドイツ盤(自主制作) Stockhausen-Verlag CD #9

"Kurzwellen"については,数種類の録音が存在するようですが,CD13は,初演の翌年の録音。CD61は1968年,Radio Bremenで録音された世界初演バージョンです。編成,奏者は同じですが,聞こえる短波の音も,それに導かれる演奏全体のニュアンスもひと味違います。(^^)
ちなみにCD61に一緒に収録されている,"Litanei 97"は合唱曲でラジオは使われていませんが,歌詞に「短波」に言及する一節があります。(それと,日本の「お鈴」も使われています。)

"Spiral"に関しては,Stockhausen Verlagから数種類出ていますが,ここにあげたのは初演から比較的間もない頃の,当時の熱気が感じられるものを挙げました。

StockhausenのCD(そして楽譜)は,ほとんどの作品が自身の出版社,"Stockhausen-Verlag"から出ていて,作曲者本人が個々の作品に詳細な解説をつけています。

CDは基本的に通販のみなので,興味のある向きは,以下に英語かドイツ語で直接お問い合わせのほどを。(Stockhausen Verlag自体は,Eメールに未対応らしいです。)

Stockhausen-Verlag
Kettenberg 15, 51515 Kurten, Germany

(ちなみに1枚あたり日本円換算で2,000〜2,500円くらい。大きな輸入CDショップでも入手可能そうですが,店頭では1枚あたり4,000円前後もしてしまいます。^^;)

Stockhausen Verlag以外から出ている,関連CDとしては

  • "Spiral" スイス盤CD hat ART CD 6132
  • (フルート奏者,Eberhardt Brumによる4バージョンを収録)
    あたりが入手可能そうです。


    [参考文献]

    • Robin Maconie "The Works of Karlheinz Stockhausen",
      Oxford University Press, 1990(2nd ed.)
    • Stockhausenの,1970年代半ばまでの作品が個別に詳しく論じられている。ファン必携。
      ほぼ時期を追って章立てに構成され,"Radiophony"と題した章もある。"Hymnen"はそこで論じられているが,"Kurzwellen"は別の章"Metamusic"で紹介されている。
    • Karlheinz Stockhausen, Robin Maconie(compiled), "Stockhausen on Music", Marion Boyars Publishers, 1989
    • Stockhausenの講演,インタビューを収録。

    [参考サイト]

    オフィシャルサイト
    のほか,
    公認の日本語サイト「シュトックハウゼン音楽情報
    http://www001.upp.so-net.ne.jp/kst-info/
    もあって,こちらにはStockhausen-VerlagのCDの解説書の日本語訳がほとんど載せてある(@o@)という,驚異のサイトです。



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