片手にラヂヲ♪ ホーム短波ラヂヲの世界へのお誘い「楽器」としてのラジオ?!John Duncan

最終更新日:06/05/15

「楽器」としてのラジオ?!

John Duncan (1953-)

"Phantom Broadcast" (2002, 47分)

[収録CD] Allquestions AQ 04

短波絡みで音楽を作る人は,まあ多少なりとも変わった人なのかもしれないのですが^^;,この人の仕事はひときわ変わっています。

この人,John Duncanは1953年アメリカ生まれ。キャリアは1970年代に画家として始まり,音楽のほかインスタレーションやパフォーマンスも手がけています。最近はイタリア在住ですが,1980年代には日本(東京の町田らしい)に数年住んでいたこともあります。

しかし,そのパフォーマンスたるやカゲキです。
芸術家仲間の家を訪ね,ドアが開いたところで空砲を発砲し逃げる("Scare", 1976),観客7人を全裸で真っ暗闇の地下室に閉じこめ鍵をかける("Maze", 1996),あげくは死体と交わった後自らはパイプカットを施す("Blind Date", 1980)など,恐怖感といったある種の人間心理の究極の追求かもしれません。
そんなおっかないパフォーマンスをする人の音楽は,どんなものなのでしょうか。(^^;)

音楽では短波ラジオが多用され,重要な役割を果たしています。ディスコグラフィーには,ソロのほか共作も多く,アコースティック楽器を使った作品(これまた「葬送の合唱団」"funeral choir"を使った"The Ruud E. Memorial Choir[1996]"なんて曲まである)もあります。

70年代末頃に短波を使い始めた頃は「夢で聴く音のようだった」と言います。
絵の勉強をしていた頃は光と色の心理的反応に興味を持ち,それが短波ラジオを使い始めたことで,それが音との関係への興味になり,その音を聴き続けてどんな反応をするか,自らをモルモットにしたと言っています。

また,短波は理想的な楽器だと言い,シンセサイザーより非常に複雑な音で,常に違いがあり予測不能なもの,と評価しています。
ラジオそのものが好きというより,あくまでその音響への興味から短波を使い始めたという点で,Willam Basinski(別項参照)との共通項もあります。

ここでは,数ある彼の短波を使った作品の中から,いかにもラジオ絡みで,かつ怖そうな芸風^^;を反映していそうなタイトルの"Phantom Broadcast"を聴いてみます。

本作は,スウェーデンで録音(CDのクレジットには"Received 18.04.2002"とあります)され,2002年9月,ストックホルムで6チャンネル再生で初演されています。
CDの紙製ジャケットは,レントゲン写真のようなぼんやりとしてざらついたモノトーンのイメージに,タイトル,アーティスト名が型押しされています。タイトルとあいまって,何かちょっと怖さを感じたりもするジャケットではあります。A^^;

曲は一つの音を延々流し続け,微妙に変化させていくタイプの音楽,いわゆるミニマルです。
CDをプレイすると,いきなり鐘のような金属的な音が延々たなびき始めます。素材をきわめて短く(おそらく1秒以内)サンプリングしたものを,ループにしているのがわかります。この鐘のような音は,少しずつ形を変えつつ作品を通して流れ続けます。

最初は,混信で起こる「ピー」という雑音(ビート混信)らしき音も聞こえます。しかし,事前に情報がなければ短波の音とはわからないくらいに,加工は徹底しています。短波の音を徹底して加工することでは,Tod Dockstader(別項参照)の芸風に近いものもあります。

しかし,その鐘のような音はノイジーなものではなく,和音,しかもメジャーコード(長調)のハーモニーを感じさせるものです。
実際,筆者はこの鐘のような音を最初に聴いたとき,イタリア・RAIの海外向け放送の,鐘の音を使った開始テーマ(キーも合っている?)を思い起こしたのですが,レビュー記事によると音源はただ一つ,短波の「ユーティリティ信号」(データ通信?)とのことです。

トーンは少しずつ変化していき,途中男性コーラスや女性コーラスのような音も入ってきます。また,同じ音を延々耳にすることで,ないはずの音まで錯覚してくるようです^^;。いずれにせよ,前述のとおり終始音はハーモニックです。
そして,最後は冒頭から続く鐘のような音が残り,徐々に音が小さくなり,やがてかすかになって静寂を残し曲は終わります。
伝えられる過激なパフォーマンスから想像される,挑発するような芸風はなく,終始瞑想的でさえあります。

同様に短波の音を研ぎ澄ました音響を使う音楽家は他にもいますが,ただ,何かが違っています。

形容しがたいのですが,作曲者も聴き手も深く自分自身に沈み込み,しかも注意をそらすことを許さないような感覚があります。少なくとも,先に名前を出したDockstaderの音楽に感じられるようなユーモアは,その音楽からはあまり感じられません。
このような,作曲者自身も聴き手にも緊張感をもたらす感覚は,確かに先のパフォーマンスの過激さにつながっていくのかもしれません。


[参考サイト]
  • 公式サイト http://www.johnduncan.com/
  • Allquestions.Net http://www.allquestions.net/
    彼の作品を専門にリリースしているレーベル
  • モダーンミュージック http://www.psfmm.com/
    「日本一マニアックなミュージックショップ」で,他ではなかなか店頭在庫のない彼の作品が充実しています。お店の人の話によると,彼が日本に住んでいた頃,時々店に来ていて親しくしていたのだとか。(どーりで^^;)
(2006/05/15)

(c) 2006 gota

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