片手にラヂヲ♪ ホーム短波ラヂヲの世界へのお誘い「楽器」としてのラジオ?!John Cage

最終更新日:2005/07/27

「楽器」としてのラジオ?!

John Cage (1912〜92)

"Radio Music" (1956, 6分)

"Imaginary Landscape No.4" (1951, 演奏時間不確定) ほか


短波ラジオに限らなければ,アメリカの作曲家,John Cageも現代音楽で積極的にラジオを導入した一人です。
おそらく,"Imaginary landscape No.4"あたりが,ラジオだけを使った演奏を指示した,ごく最初の作例と思われます。

Cage作品でのラジオの使い方は,ごくごくランダムにしか聞こえない音の出し方に特徴があります。
「ラジオ」の「演奏」は,ラジオのチューニング,ボリュームの操作などの指示がされています。ぶっちゃけて言えば,奏者がラジオを持ち,ラジオのダイヤルを回したり,音を出したり止めたりしているだけです。出てくる音は,もちろん演奏場所,時間によって違った結果が得られるのは言うまでもありません。

"Radio Music"では最大8台のラジオを6分,"Imaginary Landscapes No.4"に至っては,12台のラジオを鳴らすわけで,とにかく騒々しいです。
この両作品は上演方法に違いがあって,"Radio Music"は奏者各自がラジオ1台をプレイするのに対し,"Imaginary"はラジオ1台に2人の奏者がつき,1人は周波数を,もう1人は音量を操作する(さらに指揮者が1人いるので,計25人の奏者がいる)ようになっています。

それにしても,コンセプト一つで,そんじょそこらのラジオの音がストレンジな音楽になるのはちょっとオドロキで,こんなことを言うのもなんですが,一発芸っぽさも感じます。^^;
(こうした演奏自体のユーモラスさや,Cageのユーモアのセンスを評価する向きもあります。)

Cage作品でのラジオの役割は,音楽から作曲者の意図を排除するという作曲者の思想実現の一手段と言えます。
"Imaginary landscape No.4"を作曲した年,Cageは演奏する音を偶然性によって決定するコンセプトの最初の作品,「易の音楽」"Music of Changes"を作曲しています。

つまり,"Imaginary...."でのラジオの使用の眼目は,結果得られる音響以上に,偶然得られる音イベントを実現するインストゥルメント(「楽器」と言っても「道具」と言ってもいいかもしれません^^;)だったわけです。
また,このラジオには,演奏者の技量,意図にもかかわらない,いわば機械を使った自動的演奏の意味合いも含まれているとも言えます。
そんなわけで,Cage作品では,アンサンブルの中にラジオを入れた演奏が,上記以外にも多数あります。

ラジオの音を使っていることでは,Stockhausen(別項参照)作品にも,似た響きを感じなくもありません。
ただし,Stockhausen作品には,ラジオから聞こえた音を変形して楽器を奏する指示がある(ラジオだけを使った作品はない)こと,ラジオを短波ラジオに特定しているのに対し,Cage作品の音は前後の脈絡が希薄で即物的に感じられる点で,相当異なったキャラクターがあると言えます。

さらにその後のCage作品では,演奏する楽器,演奏時間さえ不特定のもの,実践上は読み取り困難な「図形楽譜」を多用するなどの特徴が現れます。(ちなみに,"Changes"と"Imaginary"は,意外にも伝統的な五線譜上に記譜されています。)そしてついには,有名な「4分33秒」"4'33"(1952)という「音のない」音楽の作曲(?)にまで至ります。

そのような流れの中で選択されるインストゥルメントは,ラジオに限ったものではなくなってきます。
例えば「バリエーション第7番」"Variations VII"の1966年の演奏ではラジオのほか,あげくの果てに,電話,テレビ,ガイガー・カウンターの音まで繰り出しています!

かくてそんなになっちまった(^^;)音楽ですが,流れを見ると突然変異ではなさそうで,初期作品からもその芽を見てとることができます。

「架空の風景第1番」"Imaginary Landscape No.1"(1939)では,打楽器群ととともに周波数テストレコードを回転数を変化させながら再生(元祖スクラッチだ)したり,「バッカナーレ」"Bacchanale"(1940)では,ピアノの弦にねじ釘やゴムなどの物体を挟み音を変化させる「プリペアド・ピアノ」prepared pianoを開発しています。
もはや,作曲者が譜面で示しきれないこれらの曲の響きは「偶然性」,「不確定性」への道筋になり,ラジオにもつながっていったと言えそうです。
さらに歴史をひもとけば,「未来派」(小ネタ"Marinetti"の項参照)の「騒音の芸術」の流れも考えられますが,ここでは本題でないので,本日はこれまで。<(_ _)>


[参考CD]

  • "John Cage" (イタリア盤CD Cramps Records CRSCD 101)
  • "Radio Music"を収録。解説によると,1974年4月5日22:30〜22:50の間,ミラノのスタジオで3名の奏者で録音されています。
    さらに,使われたラジオについても情報があり,"National Panasonic VHF/Aircraft/FM/AM/MB/SW Multiband portable RF-1600B Radio Model"を使用とあります。
    Cage作品の録音で,ラジオ使用のものは多数ありますが,これほど短波の音が聞こえるものは珍しいかもしれません。
    "Radio Music"には,4つのセクションがあるらしいのですが,この演奏では無音部分などの区切りは感じられません。
    ("Radio Music"の他,かの"4'33"も収録されています。^^;)
  • "John Cage: Imaginary Landscapes" (スイス盤CD hat Art CD6179)
    標題の1〜5番と"But What About The Noise...?"(1985)を収録。"No.4"は,ここではぴったり5分演奏されています。
    ちなみに1番(1939)は,打楽器アンサンブルにターンテーブルを加えた,元祖電子音楽(スクラッチというべきか)の一曲。
  • ポップス・ロックの流れの中でも案外高い人気があって,ロック系ミュージシャンがCage作品の演奏に参加した盤も数種出ています。(例えば,"CAGE / UNCAGED - a rock/experimental hommage to John Cage" [Cramps Records CRSCD 097],"Chance Operation: The John Cage Tribute" [Koch Int'l Classics 3-7238-2]など)

[参考サイト]

  • JOHN CAGE database (英文)
    http://www.johncage.info/
    作品リスト,ディスコグラフィーなどが充実してます。
  • Media Art Net (英文)
    http://www.medienkunstnetz.de/artist/cage/
    上記"Variations VII"のほか,Cageや周辺の人物の作例が紹介されています。演奏風景や譜面などの写真も見られます。
(全面改訂:2005/07/27)

(c) 2001-2005 gota

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