片手にラヂヲ♪ ホーム短波ラヂヲの世界へのお誘い「楽器」としてのラジオ?!Holger Czukay

最終更新日:2007/04/01

「楽器」としてのラジオ?!

Holger Czukay (1938〜)

Holger Czukay, Jah Wobble, Jaki Liebezeit "Full Circle" (1982)

Holger Czukay "Radio Wave Surfer" (1991)

著名な現代音楽作曲家,Stockhausen(別項参照)に師事したことのある,Czukay氏は,70年代に"CAN"という,後のニューウェーブ系に強い影響を持ち,いまだにロックファンに敬愛されているバンドの代表格でした。
「ジャーマンプログレ」,「ニューウェーブ」のオリジネイターとして,ファンのみならず同業者からも多大な尊敬を集めていて,様々な人たちとの共作もあります(小ネタ"David Sylvian"の項参照)。

Czukayさんは,師のStockhausen以上に愛着を持ってラジオ,ことに短波ラジオの音を使っていています。
ほとんどのアルバムに担当楽器としてラジオのクレジットがあり,どこかで短波の音が聞こえています。
心の底からラジオが好きそうで,氏のスタジオにも,機器類やアンテナ(!)まで並び,ラジオが自分の最初の楽器だったとさえ言っています。

80年代に"Persian Love"(1979,アルバム"Movies"収録)がそこそこヒットし,(びっくりですが,ほんとうらしいです^^;)来日してコンサートを開いたときも,オープニングでまずステージの上のラジオがスポットライトを浴びて始まるという演出があったそうです。
ラジオ,と聞いただけでほっとけない人なら,氏のアルバムは全般に要チェックです。(^^)

Czukayさんのラジオ体験は,作品へのノイズの取り入れ方もそうですが,まるでラジオから様々なものが聞こえてくるような,ジャンル不問のごった煮の芸風にも現れているように思えます。(その真骨頂は,CAN時代の諸作に収録されている,民族音楽もどき("E.F.S"[Ethnic Forgery Series]と題されている)でしょう。)

この人のラジオがらみの作品は多数あり,今なお続いているのですが,ここでは代表して,ジャケットがもろアンティークラジオ"Full Circle"(1982)と,イマジネーションをそそるタイトルの"Radio Wave Surfer"(1991)の2作を挙げておきます。

Holger Czukay, Jah Wobble,Jaki Liebezeit "Full Circle" cover

Holger Czukay, Jah Wobble, Jaki Liebezeit "Full Circle" (1982)

1. How Much Are they? / 2. Where's The Money? / 3. Full Circle R.P.S.(No.7) / 4. Mystery R.P.S.(No.8) / 5. Trench Warfare / 6. Twilight World
(アメリカ盤 Caroline 1876-2)

ちなみに,このアンティークラジオは,中央に
"DYNATRON MODEL T 57 A"
とあります。(どんな機種かご存じの方,いらっしゃいますか?)

バックライトで照らされたダイヤル面には,短波,中波,長波が欧州各国の局名とともに表示されています。ただし,周波数は左から右に波長順の表示,つまり右に行くほど周波数が低くなるという,現在の周波数順とは逆の並びのものです。

このアルバムでは,曲中にラジオの音が漂っている曲が数曲あり,Czukayさんのクレジットにも,パートに"Radio Painting"と示され,曲のタイトル中にも"R.P.S.(= Radio Pictures Series)"と題されています。

このアルバム中,"R.P.S."と題されたものは2曲あります。ラヂヲ的に白眉は,アナログA面ラストにあたる3曲目,10分にわたる"Full Circle R.P.S.(No.7)"でしょう。
冒頭,金属板の打撃音らしきものが聞こえた後すぐ,モジュレーションがかかったラジオの音が聞こえ始め,ギター,ドラム,ベース,ホーンのアンサンブルが始まります。アンサンブルは,終始ミッドテンポでリズムも変えず,淡々と続いていきます。
その間を縫うように,短波ラジオから出てくるチューニング音,民族音楽などが,楽器と掛け合うように入ってきます。ラヂヲのパートは,ちょい聞きには適当にやってるように思えなくもありませんが(^^;),タイミング,音量などやはり絶妙な混ざり具合です。
そして,このいつまでも続くかに思えるような展開の曲は,これまたほどほどのところでフェードアウトして終わります。^^;

続くB面1曲目にあたる4曲目,"Mystery R.P.S.(No.8)"は,タイトルから想起されるような静寂の中の靴音から始まり,それがスローなリズムになって,読経のようなボーカル,そしてアンサンブルが入ってきます。
ラジオの音は曲の後半あたりから聞こえ始めますが,曲調に合わせてか,"Full Circle"よりは控えめな感じで入っています。曲の最後は,冒頭の靴音が再び出てきてフェードアウトしていきます。

Czukayさんのラジオは,常にこのようにアンサンブルの中で,まさにペイントするように音が延ばされ,その名のとおり音の色彩が感じられます。師匠筋のStockhausenのラジオの使い方が,ラジオそのものの音色よりは,音イベントを先導する存在だということと対照的ではあります。(むしろ,David Sylvianのごく控えめなラジオの音の方が,ずっと精神的存在と言えるかもしれません。)

Holger Czukay "Radio Wave Surfer" (1991)

1. Rhine Water / 2. It Ain't No Crime / 3. I Get Wired Dreams / 4. Saturday Night Movie / 5. Dr. Oblivion / 6. We Can Fight All Night / 7. Get It Sweet / 8. Ride A Radio Wave / 9. Atomosphere Tuning / 10. Voice of Bulgaria / 11. Late Night Radio / 12. Through The Freezing Snow / 13. Encore / 14. Mono Tone (bonus track)
(日本盤 Marquee MAR-61199)

常にラジオの音を自作に取り入れているCzukayさんですが,曲やアルバムのタイトルに「ラジオ」のコンセプトを示していることは案外少ないのです。そういう意味でも異色の作品と言えます。

異色と言えば,この作品は全編ライブ録音で,クレジットによれば音をワンポイントで録っているとのことです。
そのうちtrack1-7.は,1987年に自身のスタジオ"CAN Studio"でのスタジオライブ,track 8-13.は1984年のベルリンでのコンサートの録音,track 8.のみ1986年のフランクフルトでのコンサートの録音とミックスされています。
演奏にはCzukayさんのほか,"CAN"の元メンバーの2人,Michael Karoli (g),"Full Circle"にも参加していたJaki Liebezeit (ds)が参加,track 1-8.には,Sheldon Ancelという男性の英語のボーカルがフィーチャーされています。
曲はどれも短く,オリジナル盤は13曲トータルで35分です。

アルバム前半にあたるtrack 1-7.は,アンサンブルの中にところどころラジオの音がうっすら入ってくる,当時の典型作です。(ボーカルは,歌とラップの中間のスタイルで,バックの演奏とのテンションが,初期"CAN"のボーカル,Malcolm Mooneyを彷彿とさせます。)
後半track 8-13.は,タイトルにラジオに絡んだものが多くなっています。track 8.を除いてボーカルはなく,前半とのコンセプトの違いがはっきりわかります。

実際,ラジオの音も他の諸作に比べてもかなり目立っています。ここでのラジオの音の使い方は,演奏にとけ込ませているというより,アンサンブルを主導するような役割で使われている感じです。

track 9."Atomosphere Tuning"の冒頭での静寂に入ってくるチューニング音は,Stockhausenを思い起こさせます。その後,アフリカの民族音楽が入ると,ギターがアフロっぽいリズムを刻んだりもします。
track 11."Late Night Radio"では,前半はラジオ番組らしいドイツ語(?)の大人と子供のかけあいの流れる中演奏が淡々と進んだと思うと,後半はラジオの音とともに,混沌とした激しい演奏が繰り広げられます。
そしてラスト,track 13."Encore"では,モールス信号や妨害電波らしいノイジーな音の流れる中静謐な演奏が進み,最後にドラの音がごわ〜ん,と一発,さらに日本の拍子木のような音も鳴ってアルバムは終わります。


ちなみに,Czukayさんはこんなことも言っています。
「電話器は音質が悪いからこそ面白いのであって,その音の悪さを生かすための想像力が大切なのです。」(「ミュージック・マガジン」1982年3月号)
ちなみにCzukayさんの楽器には,ラジオ同様のローファイのデバイスであるところの,"dictaphone"という,いにしえの録音機のクレジットも見いだせます。

どちらかというと,ノイズを排していこうとするデジタル,マルチメディアの時代にあって,ノイズを活かした人間の感性の使い方を示唆するところ,大ではないでしょうか。(^^)


参考文献

  • 「自分の体験に根ざした音楽,社会観を率直に語るホルガー・チューカイ」(「ミュージック・マガジン」1982年3月号,ミュージック・マガジン社)
  • Pascal Bussy "The CAN Book", SAF Publishing, 1989
  • "CAN"ならびにHolger Czukay関係のCDは,Czukay氏自身のレーベル"Spoon"からも多数出ていますが,ラジオの音を愛でるなら,断然Czukay氏のソロです!

    ちなみにCzukay氏の公式ホームページ
    http://www.czukay.de/

    [追記]
    長い間入手難だった"Radio Wave Surfer"は,2006年11月にドイツ・SPV/Revisitedからボーナストラック1曲付で再発され,日本でもMarqueeが扱っています。(2007/04/01記)


    (c) 2001-2007 gota

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