片手にラヂヲ♪ ホーム短波ラヂヲの世界へのお誘い「楽器」としてのラジオ?!William Basinski

作成日:2003/02/22
最終更新日:2007/06/14

「楽器」としてのラジオ?!

William Basinski

"The River" (1983)

"Shortwavemusic" (1982)


"The River"(1983)

(ドイツ盤:Raster-Noton 番号なし, 2CD)*
* 2007年秋に自身のレーベル"2062"から再発予定とのことです。

短波の音を素材に,テープループでの音の繰り返しで構成された,90分の大作。
現代音楽のカテゴリーでなら「ミニマル」,今ハヤリの言い方なら「アンビエント・テクノ」とでも言うのでしょう。

音楽の中の「短波の音」は,いわゆるテクノの分野で多く聞かれます。たいていそこには,StockhausenHolger Czukay,あるいはCageら先達の影響が強く感じられます。
しかし,その多くの音響のとらえ方は表面的で「攻撃的な効果音」といった程度の使い方です。その音に短波である必然性がさほど感じられないものが多いのも確かです。

本作はそんな中にあって,短波のノイズが大河の水にきらめく陽光の輝きのように感じられる,希有な美しい作品です。

Basinskiは,短波で聞こえる各種信号音など短波のノイズ(人の声や楽音などは極力避けている)のシークエンスを選び,ループにして重ね,通奏低音のように作品を貫いています。
その上に,"the muzak radiostation"からとられたという,ストリングスの断片をスロー再生して繰り返しています。その穏やかにたゆたう音は,さらに緩やかな変化をもって90分間続きます。

(その音のたゆたいかたは,シンセ物が好きな人には,Klaus Schulze"Cyborg",Tangerine Dream"Zeit",あるいは"Solaris"のサントラあたりに近い線,というと,わかってもらえるかもしれません....)

Basinskiの短波の音の使い方には,偶然性の要素はなく,ある種のミニマル音楽のように,素材の「繰り返し」の力だけで音楽を構成している風でもありません。
StockhausenやHolger Czukayのような短波への溺愛(^^;)も,Cageのようにあくまで偶然性実現の手段とする割り切りも感じられません。

では何なんだ,と言われてしまいそうですが(^^;A,Basinskiは短波の音を,ごく客観的に音響としてとらえ,自分の表現,イメージに合ったものだけを,慎重に選び抜いているようです。短波ラジオをシンセサイザーのように使っていると言ってもいいでしょう。

Basinskiが自己の音楽活動を始めた70年代後半,高価だったシンセサイザーの代わりに,テープレコーダーを使い始めたというエピソードは, そんな方法論の出発点とも言えそうです。(私事ですが,同じ頃,貧乏学生だった筆者も,シンセの代わりに短波ラジオで「音楽」を作って遊んでました。 ^^;)

よく「電気の音は冷たい」「人の手を通せない」などと言われますが,この作品はそうした考えを覆してくれます。長い作品ながら丹念に作られ,音一つ一つが美しく,彫琢の極みです。(^^)


"Shortwavemusic"(1982)

(米国盤:2062-Musex International 2062.0701)*
1. Evening Scars / 2. Cobalt Pools / 3. Fringe Area / 4. On A Frontier of Wires / 5. Particle Showers
* 2007年発売のCD。1997年にtrack1-4がLPで,Raster-Notonからリリースされていた。

"The River"に先行して制作された作品。
短波ラジオのノイズ,既成の音楽をサンプリングした音をループにして構成する方法は,ここですでに確立されています。素材の選び方,構成方法も同じということもあり,作品を聞いた印象も,"The River"とさほど違いはありません。

強いて言えば,1曲目"Evening Scars"に,他の作品との微妙な違いを感じます。
大方の作品では,短波のノイズが大きな曲の流れのベースになっていて,音楽の断片はノイズの中にゆったり漂っている印象なのですが,この曲では逆に引き延ばされた楽音が前に出てきています。

"Shortwavemusic"全体的には,ゆったりとした"The River"に比べ,展開がやや速く感じられるところはあるかもしれません(もっとも,曲は各5分〜23分と"The River"よりは短いのですが)。
また,音は"The River"同様推敲されているとは言え,整理されきっていない部分が残っている感じもすることはします。
選ばれた短波の音の中に,"The River"ではあまり感じられない高めのノイズ−短波の「ビート音」("キーン"と高く唸る雑音)やモールス信号など−がやや多く聞こえます。もっと も,これらの音はこの作品で耳にすると,音の艶のようにさえ感じられるのですが。(*^^*)


ちなみに,Raster-Norton盤CDのジャケットはほぼ同じもので,真ん中を丸くくりぬいた白地の紙のスリーブに,淡い色で緩やかに横に流 れるサインウェーブの組み合わせのみ。インレイカードもなく,"The River"には解説もありません。さらにはCDのレーベル面の印刷さえ最小限です(うっかりすると,プレイヤーにセットする面を間違えそうです)。
"Shortwavemusic"のMusex盤のジャケットも,紙のスリーブに淡い色調でウェーブフォームのデザインがプリントされた簡素なものです。
ジャケットの仕様は,テクノ系にありがちなレーベルのカラーでもありますが,Basinskiの音響に向かう厳しい姿勢にマッチしていますし,純粋に耳を傾けてもらいたいということでもあるのでしょう。


[参考CD]

  • "Weltecho" (ドイツ盤:Raster-Noton 057)
    "Shortwavemusic"の8分半ほどの抜粋が収録されたオムニバス盤。ただし,上記Musex盤に収録されていないミックスのようです。
  • [参考サイト]

    Basinskiが設立した実験メディアの会社のサイト
    "Music and Media Laboratories and Unknown Industries, Inc. (MMLXII-2062)"
    http://www.mmlxii.com/
    からは,彼の音響から映像におよぶ活動を窺い知ることができます。

    本作をリリースしているRaster-Notonのサイト
    http://www.raster-noton.de/start.html
    で,"The River"のサンプルのMP3が入手できます。("raster-noton.catalog"の"clear series"からどうぞ。)

    Basinskiの詳細な紹介と映像作品"Disintegration loop 1.1"(Quicktimeムービー 64MB!^^;)を
    http://www.freewaves.org/festival_2002/artists/basinski_wj.htm
    から見ることもできます。

    (2003/02/22記 改訂 2003/09/09 2007/06/14)


    (c) 2003-2007 gota

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