片手にラヂヲ♪ ホーム短波ラヂヲの世界へのお誘い「楽器」としてのラジオ?!Aquarium "Radio Africa"

最終更新日:2005/08/24

「楽器」としてのラジオ?!

Аквариум "Радио Африка"
(Aquarium "Radio Africa", 1983)

1. Музыка серебряных спиц (Music of the Silver Spokes) / 2. Капитан Африка (Captain Africa) / 3. Песни вычерпывающих людей (Songs of Exhausting People) / 4. Змея (Snake) / 5. Вана Хойа (Vana Hoya) / 6. Рок-н-ролл мертв (Rock'n' Roll is Dead) / 7. Радио Шао-Линь (Radio Shaolin) / 8. Искусство быть смирным (The Art of Being Humble) / 9. Тибетское танго (Tibetan Tango) / 10. Время Луны (Time of the Moon) / 11. Мальчик Евграф (Evgraf Boy) / 12. Твоей звезде (Your Star) / 13. Сутра шел снег (Snow Fell All Morning) / 14. Еще один упавший вниз (Another One Falling Down)

(曲は全てロシア語。題名の英訳は,英語版公式サイトによるものです。)


なんと,このコーナー初のロシアのバンドです。(^^;)

ポップスのアルバムで,曲間をラジオのチューニング音でつなぐ効果はさほど珍しいものではありません。しかしこのアルバムのように,それが短波の音でほぼ全編を通して入っているものは珍しいかもしれません。

Aquariumは,リーダーのボリス・グレベンシコフ Boris Grebenshikov(以下BG,ロシアでも"БГ"の略称で通っている)が,1972年に結成した,ロシアのロックの歴史とでも言うべきビッグネームの1つです。情報統制下のソ連時代にあって,バンドは"Radio Africa"制作当時も非公認で,ファンはダビングされたカセットで聞いていたといいます。

この当時のバンドの基調の作風は,Velvet Underground系というか,Joy Division系というか,ちょい重めのロックです。陰鬱な響きのある,本作収録の"Rock'n' Roll is Dead"は,ロシアのロックの名作の一つとされています。

ただし,本作の作風はシンセの使い方や効果音に特徴があるほか,ジャズ風("Captain Africa", "Songs of Exhausting People", "Evgraf Boy"),レゲエ("Snow Fell All Morning"),ミニマル風("Snake", "Tibetan Tango"),中華メロディー("Radio Shaolin"),さらには音響作品("Your Star")にまで及んでいます。
本作制作当時は,西側でも知名度の高い前衛ジャズピアニスト,セルゲイ・クリョーヒン Sergei Kuriokhinが参加していて,その影響も少なくなかったと思われます。

問題の曲間の短波の音ですが,ノイズっぽいチューニング音が主体です。しかも,けっこうシゲキ的な音で入ってきます。(^^;)
ほかにも業務通信など各種信号音や,Holger Czukayのラジオ(別項参照)のように民族音楽が聞こえたり,1曲目と2曲目の曲間ではアーラ・ブガチョワ Aara Pugacheva (「百万本のバラ」で有名なロシアの女性シンガー)の歌声も一瞬聞こえたりします。(^^;)
そんな風にラジオの音にいろいろなものが含んだ感じは,Cage的(別項参照)なランダムな効果よりは,Stockhausen的(別項参照)な「遠くからやって来る」ようなイメージのものです。前述の多種多様な曲の数々は,そんな短波の音のムードの中でまとまっています。

さて,本作の後もBGのラジオ絡みは続きます。
80年代半ば,BGは当時英BBCが制作したドキュメンタリー番組(日本でもNHK教育TVで放映)で,Kuriokhinとともに紹介されたことで西側から注目を浴びます。また,ロシアでもペレストロイカの時代になって,国営のレコード会社から本作を含め,AquaruimのLPがプレスされるようになります。
そしてBGは1989年,ついに米CBSから英語版ソロアルバム"Radio Silence"を世界発売するに至ります(アルバムのメイキングビデオが,これまたNHKで放映されるなど鳴り物入りだった)。さらに,続く英語盤"Radio London"(1990)にも着手しています。

お気づきのとおり,これら英語盤のタイトルも"Radio"にこだわっています。
"Radio Silence"の頃のコメントによれば,情報統制のあったソ連時代に,ラジオで西側のロックに触れていた経験に基づくもののようです。実際,当時の庶民が接していたロックに関する情報源は,VOAやBBC,Radio Free Europe (RFE),あるいはスカンジナビア諸国の放送だったようです。
"Radio Africa"では外国から飛んでくる短波を,そして海外で"Radio"の意匠をまとうあたり,BGにとってのラジオは,まさに垣間見るロックの世界,西側世界そのものだったに違いありません。

その後のBGですが,"Radio Silence"は見事に商業的に失敗,再びロシアに戻ったものの,間もなくソ連崩壊,社会的,経済的混乱という世相の中,アコースティック主体の瞑想的な作風に入ります。まるで,じきに隠遁してしまうかのようでしたが,現在は落ち着きを取り戻し,なおも現役のロックスターであり続けています。

余談ですが,私(ごた)がこのバンドを知ったのは,ロシアにグラスノスチ(情報公開)の風が吹き始めた頃,短波でロシア語のロックを流し始めた,当時のモスクワ放送からでした。(日本にいるワタシにとっても,ロシアのロックを知る手段が,これまたラジオくらいしかなかったわけでした。^^;)
そしてついには,2000年12月,BGの東京公演を見ることさえできました。セキュリティのいない会場で,酒瓶と紙コップ持参のロシア人達と,バンドの演奏にあわせて肩を組んで踊ったのが最高の思い出です。A^^;


[参考サイト]

"Radio Africa"のCDは日本ではやや入手難ですが,2005年8月下旬現在,英語版もあるこの公式サイトから,アルバム全曲分の高音質MP3がアップされたサイトへのリンク:-)があります。(ただし,ダウンロードサイトは反応が鈍く,落とすのに時間がかかるかもしれません。)

ちなみに,"Radio Silence"は日本でも当時CBSソニーからCDとビデオが発売されていました。現在廃盤状態ですが,CDは中古でよく見かけます。


[参考文献]

  • Artemy Troitsky "Back in the USSR - The True Story of Rock in Russia", Omnibus Press, 1987
    (邦訳:アルテーミー・トロイツキー著,菅野彰子訳「ゴルバチョフはロックがお好き?−ロシアのロック」晶文社,1991)
    ロシアにプレスリーやビートルズの音楽が入ってから,公式にロックのレコードも出始めたペレストロイカ前後までを記述。70年代以降シーンの渦中にいた評論家による生々しい記述で,当時の雰囲気が伝わってくる。
  • Timothy W. Ryback "Rock Around The Bloc - A History of Rock Music in Eastern Europe and the Soviet Union", Oxford University Press, 1990
    (邦訳:テイモシー・ライバック著,水上はるこ訳「自由・平等・ロック」晶文社,1993)
    東欧全般のロックの歴史を網羅。邦訳p166「ラジオ戦争」で,西側の東欧向け放送の音楽番組について,5ページを割いて記述している。
  • Thomas Cushman "Notes From Underground - Rock Music Counterculture In Russia", State University of New York Press, 1995
    社会学畑の著者によるロシアのロックシーンの紹介。関係者へのインタビューや歌詞の英訳が見どころ。
  • Michael Nelson "War of the Black Heavens - The Battles of Western Broadcasting in the Cold War", Syracuse University Press, 1997
    冷戦下の東西の電波戦を記述。英米,東欧各国の局のほか,妨害電波や欧州各局の記述も興味深い。序文をかのレフ・ワレサが書いている。
(2005/08/24記)

(c) 2005 gota
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