片手にラヂヲ♪ ホーム短波ラヂヲの世界へのお誘い「楽器」としてのラジオ?!新居昭乃 「鉱石ラジオ」

作成日:2004/12/22
最終更新日:2004/12/23

「楽器」としてのラジオ?!

新居昭乃

「鉱石ラジオ」(2001)

1.Zincite Trance /2.鉱石ラジオ/3.Satellite Song/4.エウロパの氷/5.きれいな感情 /6.How about u/7.赤い砂 白い花(marrakech mix)/08.Trance Transistor Table Radio/9.案内マウス/10.Welcome to Riskcaution Corporation/11.チェコの夢〜Fall
(ビクターエンタテイメント VICL-60721)

個人的にもお気に入りの1枚で,「小ネタ」からついに1ページの特集に格上げです。(^^)

新居昭乃さん("さん"付けでないと,しっくりこないキャラを感じる人ですね^^;)は,1986年にデビューしたシンガーソングライター。
基本的作風は,アコースティック楽器の音を生かしたポップスが主で,ここで採り上げている他の音楽家達とは,だいぶ芸風は異なっています。
自作のほか,他ミュージシャンとのセッションも数多くこなしています。アニメのテーマソングの仕事が多く,そのスジのファンも多そうです。

「鉱石ラジオ」は,新居昭乃さん的には異色の"トータルアルバム"です。ここで「ラジオ」をテーマに選んだ動機は,長い間受け持っているラジオ番組にあったようで,サウンドにもその番組のテーマ曲が取り込まれています。
ただし,「ラジオ」はあくまでテーマで,実際のラジオの受信音などの"素材"はほとんど聞こえてきません。しかし,そのことが音楽で表現する「ラジオ」のイマジネーションを高めていると言えるでしょう。

「異色」とは言ったものの,前作「降るプラチナ」(2000)にも,宇宙に行ったライカ犬と去っていく恋人を重ねた歌詞を持った「スプートニク」という一曲があります。 "科学"に向けられた視線ということでは,その芽はあったと言えそうです。
ちなみに,「降るプラチナ」のジャケットは,「共産圏の古いSF映画のような」イメージで作られ,そのイメージは「鉱石ラジオ」のラスト「チェコの夢〜Fall」にも連なっていそうです。

「鉱石ラジオ」では,表題曲のほか「Trance Transister Table Radio」「Satellite Song」「エウロパの氷」など,ちょっと科学チックなタイトルの曲が並んでいて,ラジオファンとしてもなかなかそそられます。(^^)
ここではそんなテーマに合わせ,多分に作風がシンセの打ち込みの多い音に変化しています。とは言っても,テクノっぽいハードさもほどほどの,キーボード主体のポップスではあります。

本作の制作経緯や,曲などについてのコメントは,公式サイトに詳しいのでそちらをご覧いただくとして,ここではラヂヲ的に注目曲だけ,コメントを手がかりに簡単に記します。

1曲目,アルバム全体の1分半ほどのイントロになっている「Zincite Trance」は,「ポータブルラジオのノイズをコンピューターに取り込んで加工」した音,さらにラジオのチューニングをイメージしたように音が出ては消えていく効果を使っています。

続く2曲目,オルガン,ハープシコードの音に導かれて,タイトル曲「鉱石ラジオ」が始まります。オルガンの音主体の溌剌とした曲で,ひねった電子音の類はさほど聞こえません。
歌詞に見られる「ラジオ」は,子供時代を回想するような,ノスタルジックなイメージで捉えられている感じです。

8曲目「Trance Transister Table Radio」は,キーボード主体で音数少なめの穏やかな曲。アコーディオンの音が,ひなたぼっこでもしているような,夢見心地を誘ういい味を出しています。
歌詞中に,"周波数"なんて言葉もさりげなく出てきます。(歌詞に「周波数」なんて言葉が出てくるポップスって,どれほどあるでしょう?)ラジオのイメージは,そんな歌詞の風景のなかにすっかりとけ込んでいます。
ラジオ番組を担当して感じた,「受信してくれてる無数の点と点がつながっていって,そこにはまた別の世界があるような気持ち」の表現とか。

9曲目「案内マウス」は,20秒ほどの次の曲へのブリッジですが,最もラジオっぽいサウンドを持った曲。"Are you ready?"という声の後,チューニング音のようなイメージが流れます。

ラスト11曲目「チェコの夢〜Fall」は,7分20秒とアルバム中最も長く,歌詞もないフリーフォームなテクノ的展開の曲。「自分の内側に向かって唄った感じが、チェコのアニメーションから受ける印象と似ていた」と言います。
後半の「Fall」は前述のラジオ番組のテーマ曲のバリエーション。ラスト2分間は「宇宙の裏側まで電波に乗って行っちゃいました」とのプロデューサー・保刈久明氏のコメントが示すように,瞑想的なシンセ音が緩やかにフェードアウトして,アルバムは締めくくられます。

かようなテーマの作品を作り上げたものの,新居昭乃さん自身はメカ音痴らしく「機械に強い人は尊敬すべき存在」だと言い,タイトル曲も「男の子が,急にすごい人に見えてしまった瞬間」を歌ったのだとか。

そこで,本作の科学チックでクールな部分をおさえているのは,アルバムの大部分で作曲・編曲を手がけているプロデューサー・保刈久明氏のようです。公式サイトのコメントを見ても,コンセプトを形にするうえで,氏が重要な役割を負っているのがわかります。(本作では,氏のクレジットの担当楽器に"radio"があります。)

というわけで,ラジオにはまった私とはまったく違った,科学技術に発するイマジネーションの使い方,展開の方向を示しています。
新居さんの「ラジオ」は,Stockhausenのような非日常的,超越的なイメージに連なる短波ラジオ(^^;)ではなく,日常的な内面にあって,世界のどこかの「点と点」,「別の世界」をなんとなく感じ取っている「ラジオ」だと言えそうです。

ちなみに,このCDの存在を知ったのは,音楽雑誌でもアニメ雑誌でもなく,「子供の科学」(誠文堂新光社),2001年8月号p.131でございました....。


[参考サイト]
新居昭乃さん公式Webサイト"Viridian House"
http://www.jvcmusic.co.jp/akino/

(2001/12/15,全面改訂 2004/12/22,一部改訂 12/23)

(c) 2001-2004 gota

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