片手にラヂヲ♪ ホーム短波ラヂヲの世界へのお誘い「楽器」としてのラジオ?!Keith Spears "49N 15E"

作成日:2012/12/09

「楽器」としてのラジオ?!

Keith Spears "49N 15E" (2012)



これまた,アメリカのインディーズCDの販売サイト"CD Baby"で見つけた,暗号放送をネタにした「諜報,スパイ,暗号の秘密の世界に対するトリビュート」「冷戦の悪夢のサウンドトラック」というアルバム。

作者Keith Spearsの詳しいプロフィールなどは不明ですが,本作の制作の動機として,ロシアの暗号放送局として知られている"The Buzzer"を知り,暗号放送の録音集"Conet Project"の音源(別項参照)に触れ,気味悪くて穏やかでないものを感じたといいます。
ラジオ自体への思い入れはさしてなさそうで「たぶんそれらの音源が,冷戦時代の少年時代に誕生日のプレゼントにもらったラジオで,短波放送(はっきり言っておもしろくはなかった)を聞いた昔の思い出を呼び起こしたのだと思う」とコメントしています。

タイトルの"49N 15E"ですが,ジャケットにデザインされた"乱数表"らしきものの中に,このフレーズが赤で強調されているほかは,とくにコメント等は見当たりません。
緯度経度かと思って,地図を見てみると,オーストリアの最北部,チェコとの国境あたりです。さもありなんという感じで。(^^;)

作風は,典型的なシンセ音楽ですが,暗号放送の音源やラジオのノイズで味付けされています。

1.は30秒ほどのイントロ的トラック。ラジオのノイズの中で小さな音でモールス信号が聞こえていて,"…UDIO WANDERER EP IS ODE 6 49N1…"と聞き取れます。
続く2.は,鳥の声で始まり,緩く延ばされたストリングシンセが入ってきます。後半,信号音風のシンセの音が被っています。

3,4.はアップテンポのビートがあるシンセ音楽に乗って,前述の"Conet Project"の音源がまぶされていて,3.で件の"Buzzer",4.で女性がアナウンスする暗号の音声が使われています。
アンビエント風の5.ではノイズと信号音らしき音,壮大なシンセ音楽の6.では女性の声がサンプリングされていますが、これは暗号放送ではなさそうです。

7.はアウトロのピアノソロ。不協和音を響かせ、最後は2.の冒頭にもあった鳥の声でアルバムを閉めます。
ちなみに,"Petrov"は,1983年,米国からのミサイル飛来の誤動作の警報を独断で退け,核戦争を回避したとされるソ連戦略ロケット軍のスタニスラフ・ペトロフ中佐のこと。もしその判断が違っていたら…という,ちょっと不気味なシメ。

シンセ音楽としては水準以上の出来なのですが,テーマと音楽,暗号放送や短波の音がうまく絡み切っていない感じがします。
他の"暗号放送"ネタの音楽でも程度の差はあれ感じることですが,テーマが壮大過ぎてピンとこないのか,"暗号放送"の音声が,本作の作者さんが感じたように,気味悪く生々しすぎるからなのでしょうか…。

それにしてもこれ,考えたら,2012年発表のバリバリの新作だったりします。(^^;)
"暗号放送"はなぜゆえにミュージシャンの心を捉え続けるのでしょうか?
ニッチながら「暗号放送」は、既に音楽の一ジャンルをなしていると言ってよさそうです。


[参考リンク]
(2012/12/09)

(c) 2012 gota

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